巫女の聖墳墓と現天帝ミファ
また数日をかけて、フラウロウへ戻った。
それだけ時間が経つとみんな調子を戻してきたのか、少し街に活気が戻ってきたようだ。
交通機関を使って大樹に直行した。
手続きを終え、前と同じ部屋に通された。
「天帝様をお連れしますので少々お待ちください」
天帝の秘書らしき人にそういわれ私たちは待つことになった。
*
葉が擦れる音が響く。
いくつも転がる石碑と、それに絡まるツタ。
緑と木漏れ日に囲まれたその空間は、世間が混乱する中も神聖な空気を未だ保っていた。
そこは大樹の最上。
大樹の巫女とそれに許された者のみが足を踏み入れることができる、歴代大樹の巫女たちが眠る聖墳墓だ。
その中を歩く者が一人、エルリフィの名を受け継ぐ現天帝、ミファだ。
彼女が最奥の儀式の間にて、跪き手を合わせる。
「精霊様、大樹様……」
一人呟く。
「なぜ相だったのでしょうか。相は世間知らずの小娘にすぎませんでした。今尚そうです」
儀式で自分が選ばれた時の事を思い出しそう言った。
「今の天帝は乱心だと、老い悪政を行っているのだと、そういう者もいます。天帝エルリフィの名をここまで貶めた相は確実に歴代最悪の天帝でしょう」
少々ながら課してしまった税、自由を謳うこの国ではどうしても生まれてしまう格差。
他の国に比べればあまり気にするほどでもない、一部の者が騒ぐ程度の問題だ。
今回魔霧の影響で魔獣が活発になったことで生まれてしまった被害者も数が増えすぎた。
各地の兵や冒険団ファンタジアの助けもあり、最小限に押さえられてはいるのだが、彼女はそれを重く受け止め心を痛めた。
政治を行うにはあまりにも彼女は優しすぎた。
「今この国は、この世界はまた、未曽有の危機に瀕しています」
彼女は暗黒期の頃と同じにおいを感じていた。
また人と魔の戦争が起ころうとしている。
「精霊様、大樹様、そして歴代の天帝方……、どうか相に、相等に、お力添えください……」
そしてこの国の未来のために彼女は強く祈りを捧げる。
「天帝様、白様と夜空様のパーティがお戻りになりました」
ミファの秘書、エーサが入口から声を掛けた。
「そうか。今戻る」
ミファは立ち上がりその場を後にした。
そして白たちの待つ部屋に行った。
「待たせてすまない。黄金鉱の運搬ご苦労であった」
彼女は気丈にふるまい、天帝を演じる。
これ以上天帝の名を貶めることが無いように。
次回以降も読んでいただけたら嬉しいです。