ミスクの街
天帝の紹介があったために、そこの街のお偉いさんとはスムーズに会うことができた。
「黄金鉱、ですか……」
町長の方が渋そうな顔をする。
「何か問題が?」
「希少な上に、普通であればあまり需要のない鉱石なのです。故にそもそもあまり採っていないのですよ」
黄金鉱は黄金鋼という金属に変換できる。
この金属は魔法銀よりもよく魔力を通す。しかし、細かな変形が難しいうえに希少で高価なのでどうしても黄金鋼でないといけない、という場合以外では使われない。
では武器に、と考えると、こちらも結果魔法銀の方がよかったりする。他にも武器に会う金属はいくつもあるしね。
正直飾り物としての美しさもあまりない金属で、欲しがる人が少ない。
と希少ではあるのにも関わらず、あまりに需要が低い。
これが理由で鉱山に置きっぱなし、なんてことすらもあるのだとか。
今街にあるものをかき集めても、天帝から指定された数にはほど遠い。
「じゃあ、鉱山から取ってきてもらえばいいんじゃないのか? それくらいなら全然待ってられるぞ」
と、白が言った。
ちょっと勝手に聞こえるかもしれないが、急ぎの用だからしかたないね。
「そこで、もう一つ問題が……」
「?」
「一度、ついて来ていただいてもよろしいでしょうか?」
そう言われ、その施設を出て街を歩いた。
「ここか?」
それは大きな病院だった。
この世界では病院という施設すら珍しい。
大抵の傷や病の治癒は冒険者ができてしまうからね。ヒーラーとして冒険者やってた人が老後地方で診療所を開く、ってこととかはあるんだけど、こんなにも大きい物は初めて見た。
「鉱業が今よりも活発だったころ、怪我をする鉱夫が多かったのでその時建てられたらしく、その名残ですね」
「働いてるのは?」
「元冒険者の方をスカウトする形ですかね」
中に入ってとある部屋に通される。
そこは大部屋で多くの鉱夫らしく人たちが寝かされていた。みんな怪我を負っている。
「天帝様からの連絡で魔霧というものがこの国を覆ったあと、鉱山に謎の魔獣が現れたらしいのです」
「それで何とか逃げ延びてきた人たちってことか?」
「はい。あれからしばらく経ちましたが、怪我が回復の兆しを見せず……。医者によると傷口が呪われているようで、回復を阻害しているのだとか」
白が一人の鉱夫に手を当てる。
「……ちっ」
そして舌打ち。
「どうかした?」
「"死"の呪いだ」
「え、それって……」
「死神がいるかもな。鉱山に」
そりゃあ舌打ちもしたくなるか。
そう言った後、白が床に向かって水闘気力を流し込んだ。
波紋のようにそれが広がっていく。
「これで少しずつ回復してくと思う」
白が町長に言った。
「?! 本当ですか?」
「ああ。仕方ないから鉱山には俺たちが行くよ」
「……そうなってしまいますね……。よろしくお願いいたします」
というわけで私たちは、死神のいる山に入らなくてはいけなくなったのだった。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。