水路と大樹と自由の町(1)
そして5日程歩いて北上しその街に着いた。
「うわぁ!」
ひときわ目を引くのは、街の中心に聳え立つ超巨大樹。2日前から見えてはいたが麓で見ると壮観だ。
高さはスカイツリーの1.5倍くらいあるかな。太さはもっとあるけど。
そして枝葉も広く大きく傘のようであり、街のその半分近くが木漏れ日の下にある。
「ようこそ、水路と大樹と自由の町、フラウロウへ!!」
関所での手続き審査を終えて街に入って、愛歌さんが言う。
この世界の戸籍や身分証明書は愛歌さんが偽造してくれた。
「いや、お前も一緒に入ったんだからな?」
白がツッコむ。
「何よぉ? 先に来てたんだし、連れてきてあげたんだから、別に変ではないでしょう?!」
ヤバい……。
ここまでの数日間でわかったんだけど、この二人がこうして言い合いを始めるとしばらく止まらないんだ。仲がいい証拠だろうけど、町に入ってすぐのとこじゃ人の往来も多いから人の目を引くし、何より話が進まない……。
早くどこかゆっくりできる場所で休みたいんだけど。
「あ、あの、愛歌さん?」
「あはは。夜空ちゃん固いよ。タメでいいって」
「あー、はい、頑張ります……。それにしても本当に大きい樹ですね。あれが精霊の大樹?」
大樹をさして聞いた。
「そう。何万年も前、人がこの世界に生まれる前からあそこに存在してた、って言われてるの。ちょっと想像できないよね」
歴史のスケールも凄いなぁ。そりゃそれだけ生きてればあれだけ大きいのも納得。
木を取り巻くように魔力や霊力も溢れていて、神聖な感じがする。
愛歌さんの案内で、街の中をあるいていった。
街のつくりはすごく綺麗。
元の世界で言うなら、ベネツィアに似てるかな? いや、あそこまで河だらけって感じでもないか。
「この街は大樹の周りの大河にできた、三角州の様な島々の上にできているの。街に入る時も橋を渡ってきたでしょ? 景観もいいけど防衛の観点からも有益なのよ」
今歩いている大通りも真ん中に川があって、そこを小さな葉っぱの様な船が行き来している。
「愛歌さん、あれは?」
「あれはウェインテイン。魔法による自動運転で川の中の行くタクシーみたいなものよ」
便利だなぁ、なんて思いながら歩き続ける。
その道はどれも綺麗に舗装され余裕をもって作られていて、計算された街作りがされてるのがわかる。
そんななか1つ信じられないものを目にする。
「愛歌さん。あれなに?」
「ああ、あれは魔法列車ね」
そう、鉄道に見えるものが高架を走っていた。
形はモノレールに近いかな。
「長い距離の移動にはあれを、中距離には運河を、短い距離では歩きを選択し、さらにそれぞれの場所を三次元的に分けることで、交通のトラブルや事故を減らしているの」
「ずいぶんと技術が進んでるんだね」
異世界ってなんていうか……。
「中世ヨーロッパレベルだと思ってたでしょ」
この人はエスパーかな?
「確かにこの国は科学力はそれほど進んでる訳でもないけど、電気の利用はされている。それに魔法学がある分、進んでいる分野もある。医療技術なんかは私たちの世界より進んでるわよ。それはもう、医者って職業が廃れるくらい」
いや、本当に舐めてました。
そりゃそっか、世界は無数にあるんだもんね。技術が進んだ町があったっておかしくないわけだ。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。