二日目:魔術基礎論「魔術造形演習」
翌日。
基礎訓練を終えると用意されていた机と椅子。
その上に粘土が置いてあった。
「これでなんでもいいから作ってみてくれ」
「はい?」
昨日は本当に疲れたから、今日もまた大変な訓練させられることを覚悟してたんだけど……。
「わ、わかった」
そう言って椅子に座って粘土を掴もうとした。
しかし3D映像を触ろうとしたかの様にすり抜けて掴めない。
「あれ?」
「そうそうそれは魔力でできてるから。普通にやったら掴めないぞ」
「えと、つまり……」
体内の魔力を手に纏わせるイメージをする。
最初はうまくいかなかったり、維持が難しかったりしたが、一時間くらいたって慣れてきて掴めるようになってくる。
そして粘土を手にした。
「で? 何を作るって?」
「なんでも。動物とかならわかりやすいんじゃない? 上手くなくていいから」
「ふーん。わかった」
それに座り柔い物体をこねて形を作っていく。
(……あれ? 私、美術の才能ちょっとあったりして)
なんて思いながら形を作る。納得いったら、次は白が魔術で乾燥させ魔力で色付けしていく。
それが終わったらまた新しいものを作り始める。
こねて、乾燥させ、色を塗って、こねて、乾燥させ、色を塗って。
気づけばお昼になり、休憩を取ってまた同じことを繰り返す。
夜になり朝起きて、そしてまたこねて……。
「あーもー」
机に突っ伏した。。
「? どうした?」
「なんていうか、疲れた! 精神的に!」
せめて何の意味があるのか教えてくれないと続けていられない。
「……そうだな……」
そう言って隣で本を読んでいた白がこちらに向き直る。
「魔術って何だと思う?」
「え? うーん?」
唐突な問いに戸惑う。
アニメとかだと……。
「不思議な力を学問化したもの? 科学ではないけど理屈理論があって」
更に考える。考えたものを口にしていく。
「昨日教えてもらった詠唱とかが数式の、不可思議な数学みたいな?」
「その認識は合ってるともいえるし、間違ってるともいえる」
白が本を閉じておく。
「今やってるこれが、魔術だ」
私が握っていた粘土を指さしていう。
「……はい?」
言いたいことが見えず、困惑する。
「昨日は魔術を行使するための工程とか色々と言ったけど、やってることは芸術と同じ。本来はそんな小難しいものじゃないんだよ」
私の作った粘土細工を手に取る。
「イメージした魔術を撃つことができるように、適量の素材……、魔力を取り出して、形を作り、属性で色を塗って仕上げる。昨日教えた魔術でもどんな高度な魔術でもやってることはそれだけだ」
そうなの?
「昨日言ってたな。なんで自分に魔術が使えたのかって」
「うん」
「芸術に最初に必要な物は想像力だ。どんなことよりもその魔術を使ったことによって世界にどんな影響を及ぼすのかを強くイメージすることが必要になる。汎用的な型が作られた魔術ってのは、実演して見せることで他の人もイメージが付きやすくなる。故に数学の公式やテンプレートのように多くの人に広がっていく。夜空が昨日魔術を使うという意識をせずに魔術が使えたのは俺がやって見せたからだ」
わかるようなわからないような……。
「で、今日やってることは、昨日で慣れたであろう魔力操作と造形をより素早く無意識的にできるようになるための練習。汎用的に形作られた物ではなく、自由に魔術を使うための模擬練習ってとこだな。それらの応用ができるようになれば」
白が粘土を一塊手に持ち軽く振るうとそれが炎に変わる。
「え?」
「この粘土も最初は魔力の塊にテクスチャを貼っていただけだった。それを夜空が粘土だと思い込んだから粘土として扱えたんだ」
炎だった物が石に変わり、氷に変わり、つむじ風に変わり、そしてまた粘土に戻る。
「こんな感じに自在に魔力を扱えるくらいになれば、戦闘でもついていけるレベルだな」
粘土細工を机に置いた。
「とはいえ芸術にも理論があるように、実際は細かく理論があったりするけど……、ま、それはおいおいな」
この後は実戦形式で魔術を使用する訓練をして、気づけば夜になっていた。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。