一日目:魔術基礎論「魔術の実演と演習」
近くに生えていたもう一本の木から10m弱離れたところに線を引いた。
「まずは手本を見せる」
そう言って白は右手を木に向かって突き出す。
手をピースから、2本を第二関節まで曲げた状態。曲げた2本の指の間から木を覗いている。
そしてぶつぶつとつぶやくと、指の間に小さな赤い光が現れた。
「火属性魔術:火矢っ」
そこから矢の様な火花が飛んでいき、葉を1つ撃ち落とした。
「魔界の基礎中の基礎魔術だ。対象に小さな火傷を負わせる。九九みたいなもんだと思えばいい」
「魔界?」
「俺の師匠は魔界出身なんだ」
「へぇ……」
いったんそのことはおいておこう。
白がこっちに向き直る。
「さっきも言った通り魔術は、魔力の操作、魔術の造形、属性の付与、そして放出の手順を踏む。最初に魔力を手に集中させておいて、詠唱で途中の2手順を踏み、魔術名を口にすることで放出を操作する」
そう説明された。
「ほら、やってみて」
そして無茶ぶり
「いや、ほら、でできたら苦労しないんだけど?」
九九だってそこまで算数習っててやっと理解できる物でしょーが。
最初の魔力操作ってどうしたらいいのよ。
「見よう見まねでいいから」
「そんな事言われてもな……。えーっと」
同じように木に向かって構えてみる。
「あ、そうだ。俺がやって見せたのをよく思い描きながらやるといいかも」
「わ、わかった。んん」
ちょっと恥ずかしいけど、同じように詠唱する。
「紅矢を撃ちだせ。火属性魔術:火矢っ! っ?!」
「あ、やばっ……」
一瞬、目の前が真っ赤な光に染まる。
瞼を開くと目の前の木が燃え上がっていた。いや、前方の草原が扇形に燃えていた。
「えぇ……?」
これ、私がやったの?
白が青い光を飛ばし消火した。そのおかげか、木は少し焦げるだけで済んだ。
「使用魔力量が多すぎたんだ」
いや、そもそも魔力ってのを使ったって実感すら湧いてないんだけど。
「つまり、力み過ぎだよ。今度はリラックスしてやってみて」
「その前に聞いてもいい?」
「どうした?」
「なんで、私がこんなことできたの?」
「うーん。そうだな……」
白が少し考えた表情をする。
「うん。その事についてはまた後で話す。とりあえず、またやってみて」
「……わかった」
「ただ、俺も一発でできるとは思わなかった。才能ある証拠だ」
今度は深呼吸をして落着きながら同じようにやってみた。
やはり、白がやって見せたよりは出力が高いものが放出されてしまい、少し太い枝を折ってしまった。
「その調子で続けてみてくれ。少しづつ慣れてきたら、身体の中に流れる魔力も意識するようにしていくように」
そう言われたままにやってみた。
少しづつ休みながら一日中それを続けて、夕方になるころには全く魔術が撃てなくなり体がだるくなった。魔力が空になった状態なのだと。
体に魔力が流れる感覚というのは掴めた気がする。
晩御飯は白が作ってくれたカレーだったんだけど、疲れた体にはこれがよく染みわたった。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。