翌朝の質問
「アイカさんとノアちゃんは?」
翌朝、やはり夢でなかった現実にほんの少し絶望しながら、朝食を取っていた。
その時、二人がいないことに気が付いた。
「ああ。言ったろ。俺たちもこの世界は初めてなんだって」
その世界での冒険を効率よく進めるため、白とノアちゃんは計画を練っていたらしい。
まずは人里をみつけ情報収集。この世界の文化や常識、文明レベルから知っていかなきゃいけないからね。
その上で鉱物や武具などを売却する事で金策、この世界のお金も手に入れる。
私が転移することがわかってからは、ノアちゃんだけが先に探索することに計画を変更していたのだとか。
私の訓練を終える頃にここに帰ってくるらしい。
「想定外だったのは、愛歌があんな風になっていたことな」
白が少々嬉しそうにしながら言った。
「あ、そうだ。愛歌さんのあれってなんなの?」
「……愛歌が死んで¥たのは知ってるって言ってたよな」
「うん。まあ当時ちょっとした騒ぎになったからね」
「死因は病死だったんだが、愛歌ってガチな天才でさ。自分を脳だけじゃなく身体の情報から魂まで全部AIに変えちゃったんだ」
「ああ……」
機能も確かそんなこと言ってたっけ?
「それで死んでいるのに生きているって性質が俺にくっついて世界を渡ってきたときに、変に作用したらしい。で、ああなったみたいだな」
「えーっと」
なんとなくのイメージしかできない。
「正直、俺たちもよくわかってないんだよ。ま、とにかく、半分幽霊みたいな性質もった人間だと思ってくれればいい」
「へぇ……」
昨日からだけど、本当にわけわかんないな。
常識的な考えはいったん捨てていったん飲み込んでおこう。
そう思いながら朝食の最後に、白の作ってくれた味噌汁を飲み干す。
……いつの間にこんなに料理上手くなったんだ……。昔はご飯もろくに炊けなかったのに。
「さて食事終わってすぐに悪いが頭がフレッシュなうちに、俺からも1つ聞いておきたいことがある」
「? なに?」
「少々脅すようだけど……」
「うん?」
なんだろう。結構真剣な話みたいだ。
「超人は常人よりも高い戦闘能力と防衛本能をもち、不老長寿となる。対価として生殖能力と本能が低下していき、生涯を人類滅亡阻止のために使われることになる」
「う、うん」
本当に理不尽な話だ。契約書の一つでも書いてくれればいいのに。
なんて、超自然的なことに対して文句言ったとこで何も変わらないんだよね。
「ただ、その長い天寿を全うできる超人は極めて少ない。それどころか、普通の人間と同じだけ生きられたら奇跡だろう。戦争や災害の起きるような場所に無理矢理送り込まれるわけだからな。俺の師匠に当たる人も、俺の目の前で死んだ」
「……」
その重い言葉に思わず生唾を飲み込む。
「もし、この現状に納得がいっているならそれでいい。でもそうでないのなら、安全な場所に身を潜めていてくれれば、後は俺たちで何とかする。……どうする?」
「うーん」
それは白の優しさなんだろう。
昨日、私は死にかけた。いきなり。それで気が参っていないか、それを案じての事なんだと思う。
一度頭の中で考える。そして。
「強制的に私は超人に成ってしまった。その事に対してもちろん文句の一つも言ってやりたいよ? 理不尽にもほどがあるってね」
それは本音。
見ず知らずの人間のために命を投げ出せる人なんて多くない。それも自らの選択ではなくだ。
「でも、この世界では白の提案した通りでうまくいったとしても、次は白がいない可能性だってあるわけだよね」
「……」
「もうこうなってしまったのは仕方がないんだ。運命を受け入れなきゃ。それに、私の力で誰かを救えるならそれもまあ悪くないしね」
そしてそれも本音。
少し頑張ってみたいと思う自分もちゃんといるのだ。
「そうか。ならまあ、これ以上深いことは聞かない。今日からビシバシ鍛えてやっから覚悟しろよ」
「あはは。よろしく」
それに魔法とか使えるのってちょっとワクワクするじゃん。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。




