小屋と魔法の空間
「白、わけわからない事ばっかりなんだけどさ、とりあえず家に帰りたいんだけど……」
白から渡されたタオルで獣の血液をぬぐいながら、そう言った。
「あーえっと、それは無理だな」
やっぱりそうなるの……? いや、やっぱってのも常識的に考えておかしな話だけど。
いや今の言い方から、帰れる手段があるとわかっただけマシとしよう。
「ぁぅ……。せめてシャワー浴びたい……」
「んま、だよな。じゃあ、説明はあとで。先に風呂入って来たらいいよ」
「え?」
そんな気軽に入れる場所あるの?
森の中の温泉とか……、まあ悪かないけど、白が覗かないって保証ないよねそれ。
「もうちょっと離れよう。さっきの死体の腐乱臭でもして来たらたまったもんじゃないからな」
「ああ。それは嫌だね、確かに……」
数分そこから歩き、ここでいいかな、と白が言った。
するとどこかから何かを取り出す。それを地面に投げ出して、遠くから手をかざす。
それが少しずつ展開されて行って、一分とたたずに小さな小屋が出来上がっていた。
「なにこれ……」
「持ち運びできる仮設拠点って感じかな。俺らはテントって呼んでるけど」
「ええ……」
とはいえ、どうみてもお風呂どころか、二つ以上部屋があるかも怪しい小屋なんだけど……。
「ほら、入って」
「え、う、うん」
何を考えてるのかわからないが、とりあえずその中に入った。
中は嘘のように広かった。
「こういうの魔法使いの映画であったなぁ……」
なんて呟きながら見ていく。
その空間は外からでは想像もつかない、雪だるま型の部屋だった。
手前の空間はソファやテーブルが置かれているリビングのエリア。奥はダイニングキッチンだ。
その円と円の重なるへこんだ所から左右に廊下が伸びている。
「魔法で隔離した空間に作られた場所なんだ。許可のない者が扉を開けるとこの空間にはつながらない」
あとから入ってきた白がそう言った。
「魔法……」
どんどん疑問が湧いてくるけど、今は頭の整理ができる気がしない。
今は置いておくとしよう。
「とりあえず廊下を右に行って進んで、最初の左手の扉が風呂だ」
「ありがと」
「ごゆっくり。あ、着替えなら入った後で持ってくから」
「えー、下着取ったりしないでよ?」
冗談めかしながら言った。
「エロゲじゃないんだからしねーよ、バーカ。あと、持ってくのは俺じゃねぇよ」
ふーん。
どれだけ経っても、昔のノリのやり取りもできるらしい。
白は白なんだなとちょっと再認識できた。
「他に誰かいるの?」
「ああ、後で紹介する」
「そっか。ありがと」
そう会話した後白に言われた所に行き、浴室の扉を開けた。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。




