第1話: 拝啓、空の青さを知らぬ貴女へ(12)
―――フラウロウ北西・ノア
「はぁ、めんどくさい」
いくら斬り落としてもまた生えてくる頭。
面倒故、本当は首を切り落とすことはしたくなかったのだが、そうしなければ既に50人は町人が食われていただろう。
そうなろうがノアとしては一向に構わないのだが、それで白の不興を買うのは望むところではない。
屋根を走りながら、ドラゴンの左方へと回り込む。
頭の1つに炎を吐かれる。
「海割り」
回転しながら炎に突っ込み 剣圧で炎を割りながら進む。ドラゴンの口にたどり着いてもそのまま進み、ドラゴンの首を縦に斬り割いた。
これでまたしばらく時間稼ぎはできるだろう。
もう一つの首に飛び乗り、胴を目指す。
気づいたそちら側の首が、暴れたのでもう一度、今度は最大限にまで跳びあがり、胴に剣を突き立てながら着地した。
「無駄に分厚い……」
鱗と肉に阻まれ中々深く刺さらなかったが、さらに無理に押し込んだ。
「天の火」
闘気力を大量に流し込む。
すぐに剣を抜き離れた。
ノアの闘気力が持つ魂源"壊滅"の特性が、ドラゴンの身体を犯してゆく。そして10秒と経たずにドラゴンが爆散した。
その日の天候は世にも珍しい、晴れのち血雨。悲鳴が一日鳴りやまなかったと聞く。
*
40年前、ソラさんがフラウロウに一度帰ろうとしたとき、さっきの二人組に再びたまたま出会ってしまい襲われた。そしてキロフが言っていた声を奪う呪いをかけられた。
その後5年間ソラさんは、呪いを解く方法を探し続けるが見つからず、諦めて冒険者を引退。ルトさんのいた山の麓の村に移り住み農家になる。
野菜を定期的に持っていき、生涯ルトさんを見守り続けていた。
箱を開けると新たな手紙が出てきた。書かれていた内容はざっくり話せばそんなところだ。
謎が解決して、私たちはスッキリすることはできたけど……。
「ルトさんの気持ちを思うと、ねぇ……」
今はフラウロウの外れの共同墓地にある、ソラさんの墓に来ていた。
墓の前にいるルトさんの背中を離れた所から眺めている。
「えっと、ルトさん」
やってきたサミさんがルトさんに話しかける。
「あなたは確か手紙を読んでくださった、ソラの姪孫の……」
「はい、サミ・トレントットと申します」
「声、あの人に似てますね」
そういってルトさんが立ち上がろうとしたとき、バランスを崩し転びそうになった。
「ご、ごめんなさい」
それをサミさんが支える。
「いえ。大丈夫でしたか?」
「はい。ありがとうございます」
ルトさんがしっかりと立ち上がった。
「……手も、あの人にそっくりです」
「そ、そうなのでしょうか」
吹く風は大樹の香りがして、墓地には大樹の木漏れ日がチラチラと差し込んでいた
「サミさん……」
「はい」
「空、とはどのような物ですか?」
「……え、えーっと。何より、大きい物ですかね。見上げればまるで、私たちもそれに抱かれている気分になる」
「そうですか。では、雲とはどのような物ですか?」
「……あ、貴方の心のように純粋な色をしたものです」
「そ、そうですか。私はそんな風に言っていただけるような綺麗な女ではありませんが、嬉しいです。では……」
ふふっと笑いながらそう返事をし、ルトさんは目に巻いていた包帯を解き外した。
「私の瞳とは、どのような物ですか……」
それは何度見ても、美しいと思う瞳だった。
「あの……。いかがなさいましたか?」
「は、はい」
そのあまりの美しさに、サミさんも固まってしまっていたらしい。
「え、えっと、その、美しすぎるといいますか……、心奪われるものだ、といいますか……」
「あーダメだダメだ。むず痒くて蕁麻疹が出る。報酬は今度貰いに行こう。俺は先帰ってるぞ」
白がそういって墓地から出ていこうとする。
「あっ、ちょっと待ってよ」
早歩きで白を追いかける。
「彼女いたことないからって、嫉まないの」
「俺には婚約者がいるぞ」
「……はあ? 多分ウ〇ップでももっとマシなウソ付くよきっと」
まあ何にせよ、今はただルトさんが幸せになってくれることを祈るばかりだ。
そんな話をしながら共同墓地をでると、ノアちゃんと愛歌さんが待っていた。
「ノア、どうだった?」
白が訊く。
愛歌さんの能力の1つに、人の記憶をコピーして映像のように誰かに見せることができる、というものがある。それを使って、あの二人組の映像をノアちゃんに見てもらっていたのだ。
「うん、あれは十中八九、疑似超人」
「あー、ってことはつまり」
「いるよ、死神が」
どうやら私たちは何かヤバい事に巻き込まれているらしい。
―――世利長愛歌の記憶領域:file.12【仲間紹介:ノア②】―――
能力について。
魂源は壊滅と共鳴。
格上の敵になればなるほど大量の闘気力が必要になるが対象を爆散させることができる。
また精霊への強い共感力を持っており、利用することで優位に戦闘を進められる。
数多の武器を使用可能で、メインウェポンは剣と鎖鎌。
また"主君への忠誠"という特異体質を持つ。
その能力は主と定めた相手の能力をそっくりそのまま得ることができるという強力なもの。
代償に、霊力を操る能力を失っている。
第一話終わりです。
盲目の方と声を出せない方のラブロマンスってどんなだろう、という発想から来たお話でした。
本当は童話調の短編にしようかと思っていたのですが僕の力量では難しく、こんな形になりました。
第二話も読みに来ていただけたら嬉しいです。




