獣からの逃走劇
「ウソぉ……」
目の前には見たこともない獰猛そうな四足歩行の獣一匹。森の奥にはもう二匹、獣の影が見えた。
どうするどうするどうするどうする……。
こういうときってどうするのが正解?
えーっと、目を逸らさずにゆっくりと後ずさる? それは熊だっけ。死んだふり……、も熊か。
「えと、えと……」
焦って冷静な判断ができない。
一匹が大きな遠吠えを上げた。
「あ、やばい」
その遠吠えを聞いた自分の体が理性を置き去りにして、かってに走り出してしまった。。
よく考えれば、背を見せてはいけないはずだったのだが、そんなこと考えている余裕はなかった。
しかし火事場のバカ力、というものだろうか。普段よりも脚が速い気がする。
とはいっても走りは当然獣の方が早い。
(ああ、これ今度こそ死んだな)
なんて思いながら、走っていると急に視界が開ける。
「げ」
そこは広い平原だった。これじゃ撒くなんて不可能。
どうする? どうすればいい?
考えながら走っていると、背中に強い衝撃を感じた。
獣の一匹に突き飛ばされたようだ。
数メートル飛ばされ、すぐに振り返る。
獣に噛みつかれる直前でその上顎と下顎を両腕でそれぞれ掴むことに成功する。
「いっつぅ……」
掴んでいた顎についている牙が手に食い込んで、血が流れだしてくる。
「ぐぐぐ……」
いつ指を食いちぎられ、私自身もこいつらの胃袋に入るかわかったものじゃない状態。
ああ、もう! さっきまであったかいカフェで美味しいコーヒー飲んでたのに!
なんで急にこんなことになんなきゃいけないの?!
『もし動かないと命に危険が及ぶような時は、大声を出して』
なんか怒りすら湧いて出てきたそのとき、白とした会話を思い出す。
呼吸を落ち着かせて息を吸い込んだ。
「うえぇ。獣臭い!」
しかし声を出す前にそんな感想が出てしまった。
その間に二匹目に脚を噛まれる。
「あ"あ"あ"あ"っ?! いった!」
焼けるような痛みが脚を襲う。
もう一度今度は口から息を吸い込む。
「助けてーーーーっ!」
これで来なくて死んだら、あとで白をつねる。
なんて考えていた時。
ザンっ!
という音と共に顔に生暖かい液体がかかったのを感じた。
すぐに耳元に、ボトっという音がする。
「探したぞ、ったく」
次に聞こえたのは覚えのある声。白だ。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか生きてる」
身体の上にあった獣の身体をどかし上体を起こす。
「白、だよね?」
そこにいた私に手を差し出している男の子は、さっきとは違う服を着ていた。
さらに右手に剣を持っている。
みると、左手の側の地面にも同じ様な剣が突き刺さっていた。
「ああ、そうだよ。白馬の王子様じゃなくて悪かったな」
「あはは。はなからそんなの期待してるほど、可愛いらしい女の子じゃないよ私は」
手を取って立ち上がる。
立ち上がって周囲を見ると、更に2本の剣がもう2体の獣を串刺しにしていた。
「ぅ……」
その少々グロい光景に咄嗟に口を抑える。
「大丈夫か?」
「ま、まあ、なんとか……」
殺した当の本人は全然平気そうだな。昔は虫も殺せなかったのに。
とにかく助かったことを喜ぼうと思う。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。