森の中で
「ここ、どこ?」
さっきまでカフェの中にいたはずだ。
しかし今いるのはそんな横文字とは程遠い場所。鳥か何かの声と葉擦れの音だけが聞こえる森の中。
人の手が一切加わっていないであろう文明から隔絶された場所だ。
「……夢?」
最初の感想はそれだった。
白から連絡がきた日から今も夢を見ているんじゃないか……。
でもすぐにその可能性を否定する。
理由は2つ。
1つめ、私は実際に明晰夢を見ることがあるけど、その時と状況が違う。
私の場合日常8割、非日常2割くらいの割合の夢のことが多い。
ここまで非現実的な状態だと、逆に夢だと思えなかった。
2つめ、さっきのカフェオレの風味が口の中に残っていたから。
普段の夢の時感覚は、すぐに生まれては消えて行ってしまう。
風味なんて曖昧な感覚が、ここまで持続していることはない。
でも……。
「夢じゃないなら夢じゃないで、それは問題じゃない?」
自分の身に何が起こったのか。
突如こんな場所に放り出されるなんて、非現実的なことが起こった理由を夢以外に考えないと。
えっと……。
「ああ、あれか! 異世界転移!」
その結果混乱して、よりとんちんかんな方に思考が飛んでいく。
「いやでもそうなんだとしたら、説明して能力与えてくれる人がいたり、召喚者が近くにいたりしたりするのがテンプレでしょ?! なんでこんな森の中に1人でほっぽり出されてんの?! せめて街中にしてよ!」
なんて虚空に向かって叫びながら現実逃避し始めていた時の事。
『想定より遅れてるわね。あと2分くらいじゃない?』
あの時カフェで話していた時聞こえてきた声を思い出した。
「……そういえば今の現象が起こったの、確かにあれから2分くらいが経った頃だった」
白が言ってた事って、これ?
そりゃあと2分後あなたは知らない場所にいます、なんて言われても信じやしないけどさ。
「じゃあ、なんで白は近くにいないの?」
次に浮かんだ疑問はそれ。
もしかして白も同じようになってて、それをあらかじめ知っていたとして……、何かの影響でバラバラになっちゃって……。
『どうなったとしても、その場を動かないで』
さらに白の言葉を思い出す。
「そうか、あれもこの事をわかってて……。じゃあ、この場にとどまっている方がいいのか、な……」
そう思っていた時、後方から何かが聞こえた。
それはとても低い、恐怖を誘う音だった。
振り返る。とそこには、虎の様な四足歩行の獣がこちらを睨みながら唸っていた。
「げ、う、ウソぉ……」
まるで蛇に睨まれた蛙のように体が動かなくなってしまっていた。
明日も読みに来ていただけたら嬉しいです。




