第10話:新蜂VS死神の札(11)
数分前。
「じゃあ愛歌、サポートを頼む」
みんなが戦いに行くのを見送ってそう言った。
「はいはい、いつものね」
そういって愛歌が俺の体の中に入ってきた。
「ふぅーーーーー」
深呼吸をして、集中する。
「水火魔術:蒸発……」
静かに唱える。
辺り一帯の湿度と気温が高まる。つまり魔術で無理矢理、上昇気流を生んだ。
「水氷魔法:雷雲生成……」
数分たって、またゆっくりと静かに唱える。
少しずつ少しずつ、当りが雲に覆われ暗くなっていった。
そしてまた少し経って……。
「氷風魔法:帯電……」
そう呟いた。
そして次第に空が光り、ゴロゴロと音がなるようになっていく。
世嫌うが生まれ雷を発生させるまでの過程を、魔法で加速させ再現したのだ。
「みんな! そろそろ離れてくれ!」
前方に向かってそう声を掛けた。
「俺の中に眠る水神よ。我が腕に荒れ狂う光の矢をっ!!」
詠唱すると、掲げていた右腕に雷が降り注いだ。
物凄いエネルギーが右腕に蓄積される。
「わりぃが急いでくれ!」
『そうよ! 電気は生モノなんだから!』
リーフを運んでくるイヴィと夜空、そしてその後ろから走ってくるノアにそう声を掛けた。
あと愛歌、そういう話をしてるんじゃねぇ。頼むから余計な時にボケないでくれ。拾えないから。
雷を体内に溜めておく限界に達した時、やっとみんなが俺の後ろまで退いた。
「吹っ飛べ! 複合魔法:神の一閃ッッッ!!」
右腕を殴るように突き出す。
するとその腕から眩い光線が放たれる。轟音と共に融合獣を焼いていく。
そして……。
「う、うそ、でしょ……」
十数秒経ちその光が収まったとき、融合獣は跡形もなく消え失せていた。
「魔法兵器並の攻撃をたった一人の人間が撃ちだすなんて……、有り得ない……」
アルノがつぶやいていた。
*
「白、大丈夫?!」
わけのわからない高威力の魔法で融合獣を消し飛ばした白。その様子がおかしかったのでそう訊いた。
「はぁ……、はぁ……、生きてるように見えてるなら……」
技を放った体勢のまま立ち尽くし、苦しそうに答えた。
「辛そうだけど、生きてはいるみたい……」
「ならまあ、死んではいない」
そのまま白は倒れこんだ。
「だ、大丈夫?!」
アルノたちも寄ってきた。
「今のは本来籠城してる敵とか、母艦とか、そういうのに放つ技なんだ」
愛歌が言った。
そりゃ準備に時間かかるわけだ。
「その代わり、魔力は空っぽになるし、体は痺れるし、全身筋肉痛になるしで、完全に戦闘不能になっちまう。少し休ませてくれ」
そう言って白は眠りについた。
*
「ど、どうするよ。皇帝もやられちまったぞ?!」
疑似超人の後方支援組、"女教皇"、"教皇"、"節約"。
彼らは遠くからでも戦況を確認できるのだ。
「私たちはどうすべきでしょうか。1人でも敵を道ずれにしたほうがいい? それとも一度退いて、死神様に報告すべき……?」
「それが最善でしょう。敵に1人の死者もなしに全滅させられたのであれば、我々3人でかかっても勝ち目はないでしょうし」
「なら、早く逃げようぜ。あのノアとかって疑似超人、俺たちの存在に気が付いてたみたいだぜ?」
「それはさせないよ」
森の奥から一人の男が現れる。
「あなたは……、"吊人"……?」
同じ疑似超人の中でもランクが上とされている3名のうち1人の"吊人"。
顔だけは知っていたがなぜこんなところに……、と3人は思っていた。
「死神様からあなたがたへ、伝言だ」
「? 死神様はなんと?」
「『あなた方はもう用済みです。大人しくこの"吊人"に消されてください』だとさ」
「?!」
「大人しくしていれば、苦しまずにあの世に送ってやるよ」
こうして死神の札は完全に崩壊したのだった。
これにて死神の札との戦いは終わりです。想定していたより長くなってしまいました……。
そろそろ第2章……、DISC2に入ろうと思います。
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。