第10話:新蜂VS死神の札(9)
「オラオラオラァ! ほっ。……っと、伸縮の! ガトリング!」
アイカが"皇帝"に接近し連撃、そして少し後ろに下がった後、『伸縮』の文字を腕に付与し伸びる腕でさらに連撃。
皇帝は防御の姿勢をとるが全てを受けきれず幾ばくかの攻撃をくらってしまう。
「はぁ……、はぁ……、くっ」
皇帝は悩んでいた。
戦いの前に死神から魂に刻まれ預かっていた秘術。それを使えば今ここにいる敵全員を殲滅できるだろう。それだけ強力な技だが対価として起動すればここにいる自分以外の疑似超人が犠牲になる。
それだけの対価を払ってその技を使うべきか、判断に悩んでいたのだ。
しかしすぐに世界が死んだ。そして一人、また一人と仲間が倒れていく。
「ぐああああ!」
そしてすぐ近くでもアルノのやりに心臓を貫かれ、"輪"が死んだ。
「剣光!」
愛歌が光の剣を作りだし、それを逆手に持つ。
「ストラッシュ!」
その作り出した剣を皇帝に押し付ける。
攻撃を受けとめた皇帝の右腕が吹き飛んだ。
「まだ"魔術師"が生きてはいるが仕方ねぇな」
「? 何を言って……」
そう言って、皇帝は自信に刻み込まれたその術を解放した。
*
そして現在。
「げ、何あれ」
その異様な光景を目にしてつい、そうつぶやいてしまった。
女帝の体を追って森を出るとそこには高さ3mほどの大きな肉塊のような化け物がいた。
「ノア。あれに壊滅使えるか?」
少し離れたところで白とノアちゃんがそんなことを話していた。
「無理。あまりに多くの生命が混ざり合い過ぎて壊しきれない。もちろん、時間をくれれば駆除してみせるけど、何日かかるかはわからない」
「そりゃ困ったもんだな」
珍しくノアちゃんが白に"できない"という言葉を告げた。
あるいてそっちに向かう。
「白」
「無事だったか、よかった」
「なに? あれ」
「皇帝だよ。仲間の死体……、生きてたやつも強制的に殺してだけど、それを全部自分の体に吸収して、あんな化け物になっちまったんだ」
ぇぇぇぇ……。
何その技。そんなことまでして勝ちたい? 普通。
私たちに買ったとして元に戻れるのかな?
「どうだ?! この蘇生融合は。恐ろしいだろ?! ぐあおあおあおあッ!!」
「どっかのカードゲームにありそうな名前……。具体的には魔法カードか罠カードに」
「ご丁寧にどうも」
愛歌のつぶやきに、付き合っていられるか、といった様子でそう白が返した。
「戦闘力は上がっているでしょうけど、逆に知能レベルは下がっているんじゃないかしら。いろんな人の脳も一緒に取り込んだってことだから。今意識を保っているのもやっとなはず」
愛歌がやっとまともなこと言った。
「それに動きも鈍そうだな。あれなら大技を用意しても逃げられない、か」
そこにアルノが馬で駆けて寄ってきた。
「ダメだ。槍が通らないや。傷つけてもすぐ回復しちゃう。魔法とかで一気にやらないとかも」
さっきまで前に出て攻撃してきていたらしい。
「ああ。今、そうしようかと話してたとこだ。ノール!」
「?」
自分も前に出ようかとしていたノールに白が話しかけた。
「まだ結界とやらは残っているか?」
「ああ。一応ね」
「そうか。今度は俺から提案がある」
「というと?」
「あいつを一息に吹き飛ばせる技があるんだ。ただし準備に5分欲しい」
え、なんだろう。
ノアちゃんも壊せないって言ったあれを一息で……?
「さっきとは逆で今度は白君の時間を稼げばいいってわけだね」
「そういうことだ。あと、準備が整ったら知らせるから、30秒以内に俺の前から退いてくれ、全員。じゃないと巻き添えくらうぞ」
「了解、今前に出てる人たちにも伝えておくよ」
「ああ、頼んだ」
こうして私たちは白の技の準備まで時間を稼ぐことになったのだった。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。




