第10話:新蜂VS死神の札(5)
「この裏切り者がぁああああ!」
先ほどから"正義"が叫びながらノアに殴りかかる。
それを全てひょいひょいと避けながら隙をみて攻撃をする。
「はぁ、面倒くさい」
攻撃しようとすると後方の"悪魔"からの妨害が入る。
しかも……。
「この野郎! 許さねぇ!」
何を吹き込まれたのかこの"正義"は、ノアを裏切り者などとぬかす。
「私が何したというの?」
「えっとなんだったか? 悪魔ァ!!」
「そいつは疑似超人でありながら、人間の側に着いた裏切り者なのです」
「そういうことだぁ!」
どん!
0.5秒前にノアがいた場所に粉塵が上がる。
「そもそも死神には派閥がある。その派閥間の争いのために作られたのが私たち疑似超人の起源。あなたたちとはそもそもの派閥が違う。裏切りなんてお門違い甚だしい」
「あああ? 人間についてる時点で、裏切りだろうがぁあああ!」
「前の主とは馬が合わなかっただけ」
「その事を言ってるんだよぉおおお!」
「はあ……、馬鹿には付き合っていられない……」
少し離れたところに退き、剣を抜く。
『白、少々本気を出す。許可が欲しい』
『? 本気ってあれの事か? 別に俺に許可なんか取らなくていいって言ってるだろ?』
『ん』
ノアは疑似超人の中でも特別製だった。
あまりに規格外の戦闘力を抑えるため、安全装置が組み込まれていた。
死神の支配から逃れている今はそれは自在に外せるのだが、日常では不便なため安全装置はかかったままにしている。
それを解除する許可を白に取ったのだ。最後に同じことをしたのは、
「あなたたち程度に安全装置を解除するのは少々癪だけど」
ノアを中心にゆったりと、しかし強く荒々しい風が少しの間だけ吹き荒れた。
「めんどくさいからさっさと終わらせる」
ダン!
ノアが左足を地面に叩きつけると、崩壊する地面が正義に向かって走っていく。
そして正義は地面に埋もれてしまった。
「まずは面倒な方から片づけるからあなたはそこで待ってて」
地面を蹴り今度は悪魔の方に飛んで行った。
「ちっ」
悪魔が指を鳴らす。
しかし。
「?!」
やろうとしたことができず、驚いている間にノアにその手首を斬り落とされた。
「つぅ!? なぜ?!」
「私がいる空間では半端な才能の者に魔術は使わせる気はないよ」
ノアの魂源:共鳴で、周囲の精霊と共鳴することで魔術を阻害する。
「精霊に強く語り掛ければよいのでしょう!」
そういって少し離れた位置に退いた悪魔は自身の残す全魔力に火属性を込め放出した。
業火がノアに迫る。
だが……。
「海割り」
ノアがその炎を剣圧で裂き、回転しながら進む。
そして1秒後、悪魔の体は縦に真っ二つに割れていた。
「とりあえず、1つ終わり」
すぐに正義からの攻撃が飛んできて、それを剣で受けとめた。
「くっそおおおおお! よくも悪魔を殺しやがったなぁああ!」
「その程度でいちいち大声を出さないで。そもそも戦いを仕掛けてきたのはそっちでしょ」
そう話している間に正義の筋肉と体が膨れ上がり、最終的に1.5倍ほどになった。
「俺の正義に潰れろぉおおおおお!」
ノアの胴ほどもある拳がノアに飛んでいく。
ノアはその腕に飛び乗り、顔にめがけて走っていく。
「殺しただの正義だのとわめいたり、誰かに吹き込まれた思想で動いたり、まるで子供」
肩まで着いた時、顔に手をかざした。
「そんなあなたには久遠にも思える苦痛の音楽をプレゼントしてあげる。黒風属性魔法:終焉の笛の音」
途端、正義の意識は黒い空間に囚われる。
そしてその場所では迷い込んだものの意識を壊すためだけの音楽が流れ続ける。
これはノアが白の魔力特性と黒の力を借りて使う魔法。
「ぐああああああ! やめろ! やめてくれぇええええ!」
耐えきれなくなった正義が叫ぶ。
「あああああああああ! あ」
突如こと切れたように静かになり、そのまま倒れてしまった。
「他愛ない……」
せっかく少し本気を出したのにこの程度か、と不満げにノアは呟いた。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。