第10話:新蜂VS死神の札(4)
夜空の地点からはまた離れた別の森にて。
男2人が血みどろになりながら戦闘を行っていた。隠者とレェスだ。
(どういうことだ? なんだこいつの異様な強さは。一般冒険者にしてはあまりにも強すぎる)
隠者が心の中で文句を言う。
ジャラっという音が聞こえ、また横に避ける。
さっきまで隠者が遮蔽にしていた木に深く剣が突き刺さっている。
これだ。さっきから苦戦を強いられているのは。
レェスとか言うのは二剣使い。片方は長い鎖が柄の頭についており、それを今の様にして投げ攻撃してくるのだ。
隠者は死角や壁の裏などの後ろからすり抜けて状況を把握することができる。
しかし相手は自分が隠れている場所にピタリと剣を投げてくる。
「やっと姿を見せたな」
レェスは鎖のない方の剣を地面に突き刺し、空いた手で眼鏡の位置をくいと直した。
「貴様はなんなんだ。そもそも、仲間が貴様の事を低所恐怖症か何かだといっていたが?」
「それは仲間を納得させるための方便さ。僕は低所嫌悪症なんだ」
「は? 嫌悪?」
さらに聞きなれない言葉が飛び出てきて驚いた。
「君の様な下賤のものが歩く地面と同じところに足を着けているのが、どうしても気に食わなくてね」
「……、それだけのために木の上にずっといたのか?」
「それだけのため? 僕からすれば"仲間"たちの方の気がしれないね」
腕を組み、額に手を当て、よくわからないポーズをとりながらそう言った。
こんなわけのわからない奴にいい様にされていたのか、と隠者は驚愕する。
「だというのに!」
近くにあった木をレェスが殴る。
「君程度の者に地に堕とされてしまった! この僕がッ!!」
何度も何度もガスガスと木を殴る。
「くっそ、くっそ。こうしているだけでムカついてくる! ふざけるなっ! ふざけるなぁああああああ! クソっ! クソがっ!」
木が削れきり倒されてしまった。
それが頭に当たる直前でその大木を受け止め肩に担ぐ。
そして武器かのように振り回し、隠者に叩きつけた。
隠者は跳んで横に退いて避ける。
「だけどそれを戒めにするため、吐き気を抑えて貴様と同じ地面を踏んで戦ってやっているんだ。隠れるのは終わりにするんだな!」
木を隠者に向けて放りなげ、両の剣を手に持つ。
その木の上を走り、隠者に向かっていく。
しかし隠者は……。
「う、動けな……」
放り投げられた木の枝の一本に足を轢かれ動けずにいた。
『冒険者なんて雑魚しかいないから平気よ平気』
数時間前に女帝が言っていた言葉を思い出した。
しかし女帝が主に活動していたのは何十年も前の事だ。
「女帝……、今の冒険者はかなりレベルが高くなっているぞ……」
それが隠者の最期の思考になった。
「さて、僕はこれからどうするのが正解かな。一度アルノと合流したほうがいいのかな」
そう近い枝に登りながらつぶやくと、ザザザと地面を何かが引きずる音がした。
「ん?」
見ると先ほど殺した隠者とかいうのの死体がひとりでに動き始めている。
「???」
そして木に下敷きにされていた足がもげ、足を残して体がどこかに飛んで行ってしまった。
「何だったんだ……?」
と困惑していると死体が飛んで行ってしまったのと逆の方から物音がした。
見ると今度は女の死体が飛んできて、すぐそれを追いかけるように女が走ってきた。
あれは確か新蜂の一人の夜空とか言うのだったはずだ、とレェスは思い出す。
「あれ、確かレェス君だっけ。この荒れ具合を見ると、誰かと戦ってた?」
「ぁ、えっと、その……。あの……。は、はい……」
キョドりながら答えた。
「そっか。倒したの?」
「は、ははは、はぃ……」
「じゃあ、同じようにその体がどっかに飛んでくのをみたよね?」
レェスが頷く。
「私、それ追いかけてるんだ。一緒に来ない? あ、木の上からでいいからさ」
ぶんぶんと頷く。
「じゃあ行こうか」
二人で飛んでく死体を追いかけることになった。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。