第1話: 拝啓、空の青さを知らぬ貴女へ(10)
―――フラウロウ北西・青水白
5度目、拳を交える。衝撃が周りの建物にダメージを与え、瓦礫を吹き飛ばした。
「ちっ。これ以上あいつと戦ってると、街への被害が大きすぎる」
飛び退いて距離を取る。
「街中での戦闘は苦手だ」
俺の技は大雑把なのが多く、周囲を荒らしてしまう可能性が高いためだ。
『あなたの場合戦争用の技が多いのは仕方ないけどね』
夜空や愛歌は違うが、俺が異世界に渡るのはこれで二度目だ。
最初の世界では世界戦争が行われており、それを止めるのが俺の使命だった。
そのため対軍に特化した技が多いのだ。
『だとしても、"超人"であるあなたの攻撃を受けてピンピンしてるのはおかしくない?』
超人ってのは、俺や夜空の様な定期的に滅びの運命にある世界に送り込まれる人のこと。
その運命を代償に強力な肉体を与えられる。
「予想だけどノアと"一緒"なんだろ」
『ああ、なるほど』
「こいつのことを愛歌が記録してノアに見せりゃ、多分わかる」
『それはいいけど、まずはこいつを倒さないとだよ?』
「だよな」
上段の蹴りをバク転で避け、距離を取りながら一丁の銃を取り出す。
数発撃ち込むがダメージが通った様子はない。
「普通の弾じゃ意味ないか」
しかし、これでこの武器は意味のない攻撃だと相手は認識したはずだ。気づかれないように弾を入れ替える。
そうしている間にもゲンゼは俺に近づいてきて、攻撃を仕掛けてくる。
突いてきた拳を腕で受けた。
「現代にもこのような強者がいたとはな。久方ぶりの心躍る戦いだ」
その状態のままゲンゼが話しかけてきた。
「そうかよ。こっちは帰ってシャワーでも浴びたいね」
そんな風に話ながら次の攻撃のタイミングを計っていた時、戦いの衝撃か突如近くの建物が崩落し始めた。その下にいた人が下敷きになりそうになっている。
「やべ」
足に闘気力を流し込んで急加速し急いで救出した。
瓦礫を壊し助けられたと安心したのも束の間、背筋に悪寒が走った。ゲンゼが今助け出した人に攻撃しようとしていたのだ。それをギリギリのとこで拳を掴んで受け止める。
「走って!」
「は、はい!」
今助けた人が走り去っていくのをそのまま見届ける。
「戦闘中に他人を助けるとは、随分と余裕だな」
攻撃を受け止めた体勢のまま話す。
「お前が隙だらけなだけだろ」
「そうかな?」
捕まえていた腕と反対の手で殴られそうになったため、手を放し避けた。
「先ほど見せた速度は何だ? 同じ力を俺にも使ってみせろ」
先ほど家の崩落から人を助け出したときの、水闘気力を使った超スピードのことを言っているのだろう。
「ご生憎、残量が少ないんでね」
「……、わからないな。それほどの力を持っていながら、自らの戦いのためでなく、それを他人のために使うのか? 貴様は何のために戦っている?」
戦闘中だってのにおしゃべりな奴だ。
「さあな。"人"がそれを望むから、じゃないか?」
それを聞いたゲンゼが俺に攻撃してきた。
「ふっ、英雄なりたいとでも言いたいのか? それならば、本気で俺を倒してみろ。強敵を倒してこその英雄だろう?」
攻撃を掴んで受け止めながら返答する。
「俺は敵を倒すから英雄なんじゃ無いと思うけどね」
受け止めていた攻撃を放し跳躍して距離を取る。
「とはいえお前、ゲンゼとか言ったか? 生かしとくと厄介だ。ここで消す」
剣を抜いてブーメランの様に投げるが、避けられる。
その避けた先を狙い銃で撃った。
弾には魔力が入っていて、撃ちだす直前に魔術を発動できる。
こめた魔術は愛歌の闘気力を使った固有の魔術、言霊魔術:CAPTUREだ。
弾が当たった瞬間に光の縄となり、ゲンゼを拘束した。
「なっ……?!」
ゲンゼは驚いた顔をしている。
「これでしまいだ。光属性魔術:女神の栄光」
自身に強化魔術を付与し、構える。
「ヒュドラっ!!」
そしてゲンゼの体をズタズタにした。
―――世利長愛歌の記憶領域:file.10【超人】―――
世界間の壁を超える者、にして、人の力を超えた者。
どこかの世界の人類が滅びの運命をたどったとき、その世界に送り込まれそれを止める使命を持つ。
どんな人が超人に選ばれるか、とかその条件や理由は定かではないけれど、一人超人が生まれた後、その周りでまた誕生しやすいみたいね。
明日も読みに来てくれたら嬉しいです。




