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補正社会

作者: 雉白書屋

 駅近くにある、とあるカフェ。オープンテラス。

そこで二人の男女が見つめ合っている。


「ふふっ」


「ん? ふふ、どうした?」


「んーん、ふふふっ」


「なんだよー」


「んー、かっこいいなぁ、って」


「ふふっ、お前もかわいいよ」


「えへへ」


「ははは」


「ふふっ……」


「ははっ……」


 笑い合う二人。自然と距離が縮まり、唇と唇が迫る。そして……


 ――ゴツン


「あ、ごめん」


「ははっ。つい、うっかり……あれ?」


「どうしたの? ずれちゃった?」


「いや、いまのでちょっと、調子が、あれ?」


「え! 嘘!」


「いや、大丈夫だとは思うけど、ははは、実はこれ中古で」


「最低! やだ! 私、帰る!」


「え、あ、待って、あーあ……クソッ、一旦外すか、ん?」


「――着用反対! 反対! 反対! お前ら今すぐ外せ! 外せ!

その目で世界を見ろ! これは政府の陰謀だ!

ん、おい、やめろ、俺に触るな! はなせ! はなせえええ!」


「……外すのは家に帰ってからにしよう。アレと同類と思われたらなぁ」



 機械による顔補正。それは今の時代、当たり前になった。

 シミなど消すのはもちろんの事。

顔の輪郭、鼻、目の大きさなど様々な加工をお好みで施し、サーバーに登録。

すると端末であるゴーグルその全てに情報が送信、共有され

ゴーグルを通し見る者全てのその目に補正された状態の自分の顔が映るのだ。

 今ではゴーグルなしで外出することはあり得ない。

着けずにいる者は社会の輪を乱すということでまるで保菌者のような扱い。

避けられるだけに終わらず『ゴーグル警察』と呼ばれる自警団的

過激な思想家たちにより粛清されるのだ。

 しかし、殆どの者がこの社会の形を支持しているのだからそれを咎めることはない。

 ゴーグルを着けること。それは人として当然のマナー。

そうすることにより、自分も他人も美しい姿でいられるのだ。


 カフェから出た青年は家に向かって歩く。

 空はいつも美しく、道路はゴミ一つない。

時々、何か足に触れるが見下ろしてもそこには何もない。

ふと路地裏に目を向けても、そこにゴキブリやネズミなどは存在しない。

 醜いものは何もない。顔の良し悪しで差別されることもない。

目に前には常にそんな美しい世界が広がっている。



 家に帰り、ゴーグルを外した青年は無意識に洗面所の鏡に背を向けた。

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