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東京悪夢物語「窓から見える部屋」

作者: ヨッシー@

東京悪夢物語「窓から見える部屋」


私の住んでいるアパートはボロい。

築50年は経っている。壁は剥がれ、雨漏りもする。

かなり住みづらいが、家賃28000円。都内でこんなに安いアパートは他にない。我慢するしかない…


ガラ、

窓を開ける。

あの男だ、

私のアパートの窓から見えるあの部屋。 

いつものように机に向かって、パソコンをたたいている男。

一体、何をしているのだろう?

部屋の中は丸見えだ、カーテンもない。家具らしき物は一切なく、ただ机と椅子だけがある。まるで住んでいないような、

別に覗くつもりは無いが、いつも見てしまう。

今日もまた、見てしまった…


ある日、

いつものように、あの男の部屋を見ていると、

シューン、

突然、スマホにメールが来た。

「部屋の男」

誰だ、URにも覚えがない。いたずらか?

シューン、

またメールが来た。

「部屋の男」

急用なのか?

仕方ない、開けてみるか。

カチ、

「私は、あなたが覗いている部屋の住人です」

えっ、私が見ていたのがバレていたのか。どうしよう、怒っているのかな?

「すみません、悪気はなかったのです。つい、うっかり見てしまって」返信する。

シューン、

返事が来た。

「別に気にしないで下さい。私は好きでカーテンを付けないのです。問題ありません」

よかった、怒ってないんだ。

シューン、

またメールが来た。

「ただ、この機会に私と友達になってくれませんか?」

友達だち?

ちょっと妙だが、お詫びを兼ねて友達になろう、そうしよう。

「私でよかったら、友達になります」返信する。

シューン、

「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」

「はい」

私は、ホッとした。

覗きで警察に訴えられてもいい状況だ。よかった、よかった。まあ、メールでの付き合いなんて楽なものだ…


それ以来、

私は、その男とメールの交換をした。

「今日は、いい天気ですね」

「はい、いい天気です」

メールはそんな、たわいもない内容ばかりだった。

ある日、

私の勤めている店が、売り上げがトップになった。

私は嬉しくなり、思わず男にメールしてしまった。

「この間、私の勤めている店の売り上げがトップになりました。本部からの表彰状も頂きました」

「それは、おめでとうございます。あなたの日々の努力の結果ですね」

「ありがとうございます。そう言ってもらうと嬉しいです」

「お世辞ではありません、あなたは毎日頑張ってきました。あなたの努力は私が一番よく知っています。本当におめでとうございます」

なんていい人なんだ。彼のメールを読むと心が和む。

ガラ、

私は窓を開け、あの部屋の男に手を振った。

反応がない。

彼は、ずっと机に向かったままだ。

恥ずかしがり屋なのかな?

「まぁ、いいか」


それから、

彼とは、頻繁にメール交換をするようになった。

仕事の事、恋愛のこと、

彼のアドバイスはいつも的確で、とても参考になった。そして癒された。

私は、彼を親友と思うほど、メールの交換が楽しくなっていた…


一年後、

「○○○○様、本日付で○○支店の店長に任命する」

本部からの辞令が来た。

私は、大喜びで彼にメールを送った。

「やったー、とうとう店長になりましたよ」

「おめでとうございます。大出世ですね。私も応援した甲斐がありました」

「あなたのアドバイスが無かったら、当に挫けていましたよ。本当にありがとうございます。あなたは良き友人です」

「いえいえ、あなたの実力ですよ」

「できれば、会ってお礼をしたいのですが?」

……

……

返事が来ない。

「どうしましたか?」

……

……

返事がない。

「失礼しました。気にしないで下さい。私が悪かったです」

シューン、

「ごめんなさい」

まずい事をしてしまった。

多分、彼には何か特別な事情があるのだろう。部屋から出られない何かが…私は自分の事ばかりで舞い上がり、デリカシーがなかった。反省しなくては、

その日のメールは、それで終わった。


数日後、

会社で、お祝いのお菓子をもらった。

こんなに食べられないな、

そうだ、彼にお裾分けしよう。玄関の前に置いておけば会わなくてすむ。

私は仕事の帰りに、彼のアパートへ訪ねることにした。

ここかな、

私のアパートから見える方角だとこの建物だ。

部屋の前まで行く。

「この部屋か」

表札は無い。

私は書き置きを付けて、お菓子の袋をドアの前に置いた。

ガチャ、

突然、隣の部屋のドアが開いた。

「どうしました?」

隣の住人が出てきた。

「はい、」

「訳あって、ここの人にお裾分けのお菓子を置くところです」

隣の住人は、怪訝そうな顔をした。

「そこは、ずっと前から空き家ですよ。もう十年以上です」

「そんな、」

確かに、ドアは埃まみれで錆びていた。電気のメーターも動いていない。人が住んでいる気配はまったく無かった。

そんなばかな……


その夜、

私は、恐る恐る彼にメールしてみた。

「今日は、すみませんでした。どうしてもお礼がしたくて、ドアの前にお菓子を置いておきました」

……

……

シューン、

「お菓子、ありがとうございます。大切に頂きます。しかし、もうこういう事は辞めて下さい」

やっぱり、怒っているんだ。

「すみませんでした、もうしません。もう一つ、部屋は合ってましたか?ちょっとドアが錆びてましたが」

……

……

シューン、

「合っています」

「隣の人は空き家だと言ってましたよ。酷いこと言いますね」

……

……

どうしたんだろう、返事が遅い。

もしかして、

私は不安になり、気になっていた事を書いてみた。

「あなたは本当に、あの部屋に住んでいるのですか?」

……

……

「はい」

「あなたは一体、何者ですか?」

……

……

……

どうしたんだ?

その時、微かな機械音がした。

「ワ・タ・シ・ワ、ア・ナ・タ・ノ、ト・モ・ダ・チ・デス」



今も時々、

男からのメールは来る。

以前より回数は少なくなったが、まだ続いている。

ガラ、

窓を開ける。

たまに、男の部屋を見てみる。

あの男は、いつものように机に向かってパソコンをたたいている。

カーテンも引かずに、毎日、机に向かっている。

シューン、


また、メールが来た……


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