「かみくず」「しえん」「みなそこ」
[ショートショート] [ダーク] [ファンタジー度☆☆☆]
『かみくず』
「あなたは神を信じますか?」
その言葉と共に目の前に広げられたは、金色の巻物。焚きしめられた甘い香がムッと薫り漂った。
岩群青に孔雀石、辰砂で描き出された御姿に、長年の採掘労働によって歪んだまま固まった手を伸ばし。
ぐしゃり、握り潰す。
「いいやこんな物ただの屑だ」
『しえん』
重く甘ったるいにおいが漂っている
働く者達へ月に一度配給される恩寵
俺の祖父はそれを使わず埋めていた
屑のような枯草と束になった薄い紙
働きの対価です、と連れられたきり
帰って来なかった祖父が纏っていた
それと同じにおいだと俺は理解した
この真っ白な御殿の中で漂うものは
岩窟で鶴嘴をひた振った祖父の意志
それを粉々に砕き潰し微笑んだ奴ら
ならばこれも「どうぞ御笑覧あれ」
お前達が彩るおキレイな天上絵画を
マガジンを落とし吸い殻を投げ捨て
銃口も俺の口も苦い煙を吐き出した
カンバスはまだ白く完成には程遠い
俺は鈍く光る黒い銃身を再び構えた
『みなそこ』
『ただの屑だ、あんな物』
うとうとして
沈んでゆく
鈍く光るもの
遠く離れて
『ただ、の……』
うとうと、したんだ
沈められていく
もう何もわからない
伸ばした手の先
『……あ……』
白も黒も遠ざかった果て
そこで見えた気がした
うつろにあいた無数の目
あまいにおいがする
『あなた、は……』
すくわれたもの
すくわれたもの
みなそこにいる
みなそこにいる
『あなたは神を信じますか?』
テーマ:掛詞連作三部