そこからはじまる
[ショートショート] [ミディアム] [ファンタジー度☆☆☆]
薔薇は薔薇とてただの花。手折るのなど容易い。だがしかし薔薇は薔薇。そこには棘があった。
チクリ、その後指先に膨れた紅い玉。それは、今しがた花瓶から抜き取り手にした一輪の花と同じ色をしていた。紅に口を寄せて吸う。
鼻腔をくすぐる香り。それを甘美だと感じたことに、今は知らない振りをする。
花をシーツに放り、そこに身体を乗り上げて踏む。荒らす。暴く。その後は黙って部屋を後にする。いつもの通り散らした花のことなどは置き去りにして。それでも尚、薔薇の女はふわり艶然と微笑んでいた。
目の先に差し出して見せた、やわらかな甘やかさ。それに魅了されたのは、果たしてどちらだったのか。
もう酔いも欲もさめたはず。なのに今頃になって早鐘を打ち出した、己の心臓の辺りを掴む。チクリ、棘に刺されたかのようなやわらかな甘やかさ。それがふわり心をくすぐって、知らない振りなどとても。
握りしめた拳の下ではあの色が巡っている。艶然と微笑む薔薇の紅が、今も、これからも。
お題:文字書きワードパレット・「アレキサンダー:薔薇、知らない、踏む」