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9 クールに決めようよ。俺の生き方

「なるほど。理解できたよ」


 俺は現在保管庫と呼ばれている部屋にいた。

 保管庫と言ってもどちらかといえば巨大な図書館と呼称した方が正しいのかもしれない、そんな広く物静かな部屋だ。


「この本って持っていっていいの?」


 そして姫と呼ばれていた女から渡された、二冊の本を読了していた。

 その本は所謂世界地図で、様々な国や地域の地形や地名が事細かに記載されているものだ。中には女の言っていた邪神のいるであろう場所についての地形も載っていた。


「……利用ルールとしては当保管庫内の全てのものは持ち出し厳禁とされております。できればご遠慮頂きたいというのが本音ですが」


「俺ならいいってわけ? 怖いからってこと?」


「…………」


「うーん、まぁ別にそこまで欲しいわけでもないし、別にいいんだけど」


 邪神がいるであろう場所の目算はだいたい付いた。今いるアンガベレスタの大陸から北にあるスタッシルツの大陸という大陸。そこは大きく三つの生物圏に分かれているらしく、多分今度はその辺を当たっていけばいいだろう。大陸までは普通に飛んでいけばいいし、現地の住民に聞けばまた新たな鮮度の高い情報が得られるはずだ。


「では用は済まれましたか?」


 女が恐る恐るといった様子で尋ねてくる。


「うん、ここには元々邪神の情報収集のために来たからね。それが達成できたんだから、当然これ以上の予定はもうないよ。いやー正直想像以上だったね、地名だけでなく正確な場所すら把握できるなんて」


 実際非常に満足だ。

 胸の高鳴りが抑えきれない。

 せっかく手に入った情報なのだ。これを機に早く邪神の元に行き、ぶっ飛ばしたい衝動に突き動かされる。


「ではこの場から去って頂けますか? 私は約束通りあなたの要望を叶えました。あなたもそれはご理解して頂いた上でのことですよね?」


「ああ、そうだったね。約束を破ることはしないよ。確か殺さないってことだったよね。オーケーオーケー。それじゃこれまでありがとう。俺は先に行くとする」


 そうと決まればこんな所に用はない。

 俺は真上に右手を掲げた。





 ズゴオオオオオンッ――!!






 掌から光線が放たれ、天井を突き抜けた。



「なッ!?」


「それじゃあね」


 天井と言ってもここは地下なわけだ。どちらかといえば天井より地面と呼称する方が近いのだろうか。

 そしてここまで来る際、それなりには地下深く降りてきており、天井から地表までの厚さもそこそこにあるはず。

 しかし俺の光線はその障壁をもろともせず、現在はるか上に見える小さな穴からは、青い空がちろりと顔を覗かせていた。


 そして、光線の影響なのか、ゴゴゴゴと音をあげ少しずつ天井が崩れてきた。落ちてくる瓦礫も、最初は小さな破片がポロポロっと落ちてきたくらいだったものが、今ではかなりの体積、頻度で地面を打ち鳴らしてきている。


「や、約束と違うじゃありませんか!」


「え? 俺はただ自分の行く道を作り出しただけだよ? その過程で誰がどうなろうが俺には関係ない、っと」


 ちょうど、俺の頭上に白い瓦礫の塊が落っこちてきた。

 一般人なら間違いなく即死級の仕事量を誇っていたであろう瓦礫だったが、俺の瞬きによって眼前で粉々に砕け散った。


 俺は絶望の表情を浮かべる女を置き去りに、宙へと舞い上がった。

 このままだとしばらくもしない内に地中に生き埋めになってしまう。


 俺は音速をも超える速度で地上へと到達。


 眼下を見下ろしてみる。


 俺の光線が想像以上の威力だったのだろう。空いていた穴から周囲の地面にもヒビが入っており、そのヒビの大きさを段々と増していっている。そしてそれはさながら地盤沈下のような形になり、周囲にいくつも建っている建物を支える地面をも傾かせ、様々なものを巻き込みながら崩壊の一途を辿っていた。


「あーあ、こりゃ絶望だね」


 崩壊が崩壊を呼ぶ。

 映画でもそうそう見ないような映像を前にして、俺は考えていた。


 うーん、まぁ結局こんあ感じにはなっちゃったわけだけど、邪神の情報は手に入ったわけだし、無駄ではなかったよな。何も人殺しのつもりでやったわけではないし。あーでもこれだとなんか中途半端かなぁ。即死ならいいけど、苦しみながらとかで死ぬ人だって沢山いるだろうし、なんなら重い後遺症を残す人だっているかもしれない。

 そうだよな、だとしたら楽にさせて上げるべきか、それが優しさってもんだよな。うん、きっとそう。


 それに、と俺は考える。

 今まで通ってきた街、と言ってもこことまだもう一つしかないが、街はきちんと綺麗に壊滅させてきている。それなのに、もしこの街を壊滅させずに見逃すような真似をしてしまえば、俺の経歴に汚点を残すハメになってしまわないだろうか。

 本当はできるにも関わらず、それをしない。

 手を抜くというのは全くもって俺の信条にそぐわない。


 そもそも邪神を倒すのだってただの思いつきによる戯れに過ぎない。

 であるならばこの街を戯れで滅ぼすことに何を抵抗する必要があるというのだろう。


「よし、決めた――この街も滅ぼしてしまおう」







次話に続く


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