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6 カワイコちゃん、こっちおいで

 真っ赤に染まる光景。

 血の濃くもったりとした匂い。


 その媒体となっているものは、おびただしい数の人間の死体だ。


 少し前まで俺の目の前にいた人間ども、のべ百人にも及ぼうかという血肉どもは、その殆どが死に絶えていた。


「さて、話を聞いてもらえるといいんだけど」


 そう、殆ど、と言ったのは、その言葉が示唆する通り、この部屋の中にまだ生き残りがいるからだ。


 俺はこの惨状の中における唯一の生存者に向かって、ゆっくりと歩き出す。


「やぁ、えっとはじめまして、かな?」


 俺はその生存者に向かって朗らかに声を掛けた。

 これが果たして合っているのかどうかはわからなかったが、話を聞き出すには初手から温厚に入った方が得策なのではないかと考えたのだ。


「……なんのつもりですか」


 床に尻を付きながらも、気丈に問いかけてくるその人物は、長い金髪の女だった。

 例に漏れず豪奢な衣服を身にまとい、その艶やかな髪の上には細かな意匠の施された銀のティアラが被せられている。

 年の頃は十代中盤から後半といったところで、俺とさほど年齢は変わらないだろう。



 そう、俺は先の攻撃を仕掛けるに当たり、とある策略を企てていた。


 この場にいた人間を全滅させるだけなら簡単だ。



 最初の街のように適当に周囲を巻き込む大爆発を起こし、全てを消滅させればいい。

 むしろそちらの方が仕事としては圧倒的に早かっただろう

 エネルギーを枝状に伸ばし、人間一人一人をターゲットに標準を合わせるなどという、こんな手間がかかるような真似事をわざわざする必要はない。


 それでも俺がこの方法を取ったのは、一つ気まぐれな思いつきが宿ったからだ。


 まぁそれというのはそんなに大それたことでもないのだが、いわゆる先ほども言った通りの恐怖を与えてうんたらかんたらというやつだ。

 さっきの俺は拷問をしたりするのが面倒だなんてことを考えていたが、まぁ、結局その方法は案外理に叶っていると思ったわけだ。

 ということで俺を怒らせた全員を殺すのは確定としても、攻撃の際一人ぐらいは残しておいてそいつから何か聞き出せれば効率的かなと思いこの行動をとった。


 ちなみに人物選びは本当に適当で、目に写った人物をなんとなく生かしただけだ。

 とはいえその人物を見て見るにかなり見目麗しく、浮世離れした美しさを誇っていることから考えても、無意識の内にこいつを選んでいたという可能性は十分にあるかもしれないが。


「うーん、見たらわからないかな。君に尋ねたいことがあるんだよ」


「……あなたは何者?」


 その女は凛とした鈴のような可愛らしい声色だった。

 およそ女が出すことが可能な一番可愛い声というものがこれなんじゃないかと思えるほどだ。


「さっきの自己紹介聞いてなかった? ってあれ、俺自己紹介ってしたっけ……まあいい。とにかく怪しい者とかではないから答えてくれ、邪神ってどこにいるか知ってる?」


 特にぐだぐだと喋るつもりもないのでこれまた単刀直入に尋ねてみた。

 一応殺戮を犯す前までは、この子の周囲にそれなりに手厚く護衛が敷かれていた記憶が残っているため、なんとなく高位の身分なような気もするが、こいつの身内なんて今はどうだっていい。


「それを聞いてどうするのです? 周りの人は皆……であるならば私が律儀にあなたに答える、そんな思いは抱きようがありません」


 大きな瞳で俺を見ながら、きっぱりと彼女は公言した。

 うーん、意外と芯のある性格をしてらっしゃるみたいだな。親の育て方が相当に良かったんだろうか。


「いや、この状況でそれだけ冷静になれるんだったらもっとちゃんと考えてみてよ。君以外は全員死んでるわけだけど、君は生きてる。ということは君には存在価値があるわけだ。それは何かと言えばこの俺の質問にきっちりと答えること。それに答えられないというのであれば、当然君は死ぬだけだよ?」


「脅迫、というわけですか。そんなもの意味はありませんよ。この国の何を狙っているのかはわかりませんが、私や国王が死んだとしても根幹の部分には到底届き得ません。行為を繰り返すうちにあなたは補足さえ、捕まり、殺されます」


 女は力強く断言した。

 その目を見る限り、言葉は虚言ではなく、ハッキリとした自信に満ちていることがわかる。


「あー、なんか変に勘違いさせちゃってるのかもしれないけど、俺は別にこの国をどうこうしようとか、何か悪いことをしてやるーとか、そういうことは全く思ってないんだ。そもそもここが何の場所で今何をしていたのかとか全くもって分かんないし。俺の目的はただ邪神を倒すってことだけ。そのために邪神の居場所を知る必要があるから、知ってる人を探し回っている内にまぁこうなってしまったというわけなんだよね」


「……信じられません。本当にそれだけの理由と仰るのであれば、兵士たちや教会の者などに直接尋ねればいいだけではないですか? 人を殺す道理など、そこにはないはずです!」


「うん、まぁ確かにその辺の人に聞けばそれで良かったのかもしれないんだけどさ。俺この世界のことよく知らなくてさ、誰に聞けばいいかとかあんまりよくわからなかったんだよね。君に理解してもらう必要はないけど俺まだこの世界初日だからさ。そんな状況で誰に聞くんだとなれば、当然一番モノを知ってそうな人に聞くのが手っ取り早いよねという話になるわけで。だから特に情報を握ってそうな人がいそうなここを尋ねてみたんだよ。実際なんか君ちょっと偉そうだし、あながち的を得てる考察だと思うんだけどな」




次話に続く

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