4 悪役、ってわけじゃないんだよなこれが
俺は王城へと向け一直線へと突き進む。
城の周囲はさらに城壁で囲まれており、当然見張りなども分厚く配置しているだろうから通常の手段では容易に突破はできまい。
しかし俺は空中を移動することでその問題を易易とクリアした。
遠くから見る限り、城は一つではなく大小含めたいくつもの建築物が立ち並んでいる様式となっている。
どの建物にお邪魔するか一瞬悩んだが、その悩みもすぐに晴れた。
単純に一番高い建物が、一番凄い。
そう勝手に結論付けて、俺はその城の天辺付近の窓めがけて突っ込んだ。
ガシャン!
窓ガラスを盛大に割りながら、俺は内部へと侵入した。
まぁ、実際はこんなことせずとも俺の移動の際の余波だけで全てを粉々に消し去ることも可能なわけだが、人や重要な手がかりを消し飛ばしても仕方がないわけで、ここは俺にしては珍しく礼儀に習って正面から侵入してみたわけだ。
さてさて。俺様が最初に訪問した場所が、一旦どんな場所になっているかといえば、そこはだだっ広い綺羅びやかな部屋となっていた。
窓から差し込む光もさながら、天井や壁際などいたるところに配置された黄色いランプが、部屋全体を明るく鮮やかに照らしあげている。結婚式場? んなわけないか。赤いカーペットがありそれを進んだ先、そこにご立派な王座がこしらえてある。たぶん謁見の間的な場所だろう。よくゲームで勇者が王と面会しているシーンで使われている場所だな。そんなものがなぜこんな党の高い場所にあるのかはまったくわからなかったが、そんな疑問は今はどうでも良かった。
そんなことよりも、俺の登場に驚いている眼の前の観客たちを相手しなければなるまい。
「な、何者だ貴様!」
そこにいたのはのべ百人に迫るか超えるであろう人間の群れ。その誰もが豪奢な衣装に身を包んでおり、立場、身分としてもかなり上の方にいる人物たちであることが見て取れる。
そしてそんな方々全員の視線が今、突然の闖入者である俺へと向けられていた。まぁ当たり前だな。
「何者かと聞いているッ! どうやってこの場に入ってきた!」
いくばくかの間も経たぬ合間に、俺は数人の兵士の格好をしている男どもに囲まれていた。
といっても俺はまだ窓際にいるため、扇状に展開していると言ったほうが正しいのかもしれないが。
全員が手にした槍を構え、油断なく警戒しているのがわかる。
あー怖がらせちゃってるかなこれは。でもしょうがないじゃないか。入った場所がまさかこんなにも大勢が集まってる場所だなんて誰が想像できるだろうか。なんとなく偉い人が一人二人いるみたいなイメージだったんだけどな、これは参った……
「答えろ! 何者だ!」
先程から散々聞かれているので、流石に答えなければまずいだろうな。というか冷静に考えてみてこの状況というのは案外いいのかもしれない。この国でも偉そうな人たちが沢山集まっているというこの状況。情報収集にはまさに理想な対面じゃないかこれ。よし、となれば、
「あー、すみません、いきなりで驚かせてしまいましたよね。一つ、最初に言うとすれば僕は怪しい者ではございません。実は一つだけお尋ねしたいことがありまして、伺い参じたというわけでありまして」
俺がそう言うと何故か一層の警戒を強めた様子で、周囲を囲む男たちが手に力を込めていた。
気づけば彼らの後ろにも何人かの人物が、カバーできるような位置取りでポジショニングしてきていた。その中には女も混じっていて、こちらの方を凝視してきている。
なんだろう、完全に包囲されてますって感じだな。今目の前にいる人間たちが、どれほどの能力を持っているかなど知るよしもないが、恐らくそれなりの使い手たちであるということは、警戒しながらもゆったりとした柔軟さを保っている構えからも見て取れた。
「で、じゃあまぁいきなり質問なんですけど、邪神ってどこにいるんですか?」
なんか丁重にいくのも面倒くさくなってきたのでごくシンプルに端的な質問を飛ばすことにした。
最初はなんかいきなり現れた慇懃無礼な謎の人物、果たして彼の正体は――的な感じでこれから立ちふさがるであろう強敵感を出そうとしてみたりもしたんだが、なんか違う気がしたし、早く終わらせた気持ちが勝ってしまった。しかもこんだけ視線が集まってるのって、なんか緊張するし……まぁそうなって当然だとは思うんだけど。
「邪神……だと? それを知って何がしたい。なぜこの場に現れた?」
「いや、特にこの場所じゃないと行けない理由とかはないんですけど、ほら、やっぱりできるだけ知識のありそうな人に尋ねてみる方が早いじゃないですか。ちまちま情報を収集してってよりはね。だから知ってそうな人だれかなーって考えたときに、ちょうどこの街で一番高い建物があるじゃんとなりましてですね。それでこの場所に現れたというわけでありますよ、ええ」
「……信じられんな。機を計ったかのようなこのタイミングで、しかもそんなつまらん理由だけで窓を割って侵入。普通の人間がやる所業ではあるまい」
「まぁ、そうですね。確かに普通の人間じゃまず空飛べないですし。でも理由としては本当にそれだけなんですよね。まぁもし仮に怪しまれて口をつぐまれるような状況になったとしても、そこはほら、ちょっと拷問的なあれな感じでいたぶって聞き出してしまえばいいかなぁ、なんて考えもあったりしてですね。結局どんな訪ね方をしたとしても、概ね僕の目的は達成されるかなと、そういう概算があってのこの状況というわけでもあるんですよね」
次話に続く