3 空の旅はもうあきたんだよ
俺は空を滑空していた。
空中を次々に蹴り出し、その推進力で宙を切って進んでいるのだ。
「あぁ、やばいな、全然町が見つからない」
先程から周囲をくまなく見回しているのだが、最初と違って町らしきものが一向に見つからなかった。そういえば転生のときに女神様が近くに街があるところに転生させてあげます的なことを言ってたっけ。それで今回はこんなに見つからないのか。たしかにメチャクチャ適当に飛んでるもんな今。あーあ、せめて町から伸びている道を辿って飛ぶべきだったな。そうすればその道の先にいずれ町が見えてくる可能性は高かっただろうに。
「うーん、本当にどうしたものか」
俺は困り果てたままそれでも望みを捨てずに飛び続けた。
そしてかれこれ一時間が経過したくらいだろうか。
ようやく眼下に街のようなものが見え始めた。
「はぁ、ようやくか。あれ、それにしても今回の町はかなりでかいな」
見たところ先程の町の四倍以上は軽くあるんじゃないかというレベルの広大さだった。
街の中心部には王城のようなものもそびえ立っており、かなり発展している街という印象をうけた。
「もしかしたらこの付近でもかなり主要な街なのかもしれないな。ま、その辺もうまいぐあい聞いてみるか」
俺がここに来た理由は情報収集のためだ。そのついでということで気になることは聞いてしまえばいいだろう。
俺は今度は騒ぎにならないよう、人目を憚りながら街内に静かに着地した。
俺はとりあえず人気のない裏路地的な場所に降り立ってみたのだが、想定どおり騒ぎになるなどということはなく。今も路地裏から曲がってきた臭そうな男が何事もないように俺の前を素通りした。
ふん、先程の反省が完全に生きている形だな、さすが俺様、学習する男というわけさ。
「さて、となれば早速邪神についての情報収集をと……」
さっき通り過ぎたおっさんに聞こうかな、でもなんか臭かったしホームレスな感じバリバリで教養もいまいちなさそうだし、どうせ聞くなら他の人のほうがいいかな、なんて考えていたところに、ふと掛けられた声があった。
「おいあんちゃん」
呼ばれた方を見てみると、いかにも柄の悪そうな感じの大男二人組が、ニタ付いた顔で俺の方を見てきていた。
「なんでしょう?」
「いや、ちょいと見ない顔だなと思ってよぉ。それと関係ないんだがな、俺ぁさっきちょっくら嫌なことがあってよ、なんか無性にむしゃくしゃしてるんだわ」
男たちは薄ら笑いの顔を変えることなく俺へと話しかけている。
「だからよ、分かんだろ? ちょっといいもんみせてやるからよ、ちょい付き合えや」
「へへ、悪いことはしねえからよ、悪いことはよ」
男たちは何がおかしいのかケタケタと笑っている。
なにやら気味が悪い感じだった。
「うーんとですね。俺はちょっと今取り込み中でですね、余計なことに時間を浪費するわけにはいかないんですよ」
「はぁ? だからどうした、何がしてぇんだ? あん?」
「ちょっとまって、こいつもしかして……逃げちゃう? 逃げちゃう機会ないかな? みたいな思ってる?」
なにやらこちらを煽ってくるような言い方をしながら再びけたけた笑う二人組。
「あの、本当に用事があるんで、つまんない会話に付き合う暇はないんですよ、わかりましたか。それじゃぁ俺はこのへんで」
俺は埒が明かないと思い、二人を無視して先へ行こうとする。
男が俺の一人が俺の腕をつかんできた。
「おいおいおいおい待て待てこらおい、なんのつも――」
瞬間その男の頭が飛んだ。
「へ?」
頭だけになった男は最後にそんな言葉だけ残し、絶命していった。
「え? あれ、え」
残った方の男は何が起こったかわからないとばかりに口をパクパクと金魚みたいに開閉している。
「一つ質問があるんですけど」
「は、はい!」
「この世界に邪神ってやつがいますよね? そいつどこにいるかわかります?」
俺は一応男に問うてみた。
これだけ時間を使ったんだし、少しばかり伸びるくらいは一緒だ。それよりも何か知っていることがあれば多少の得にはなるんじゃないかと思っての問だったのだが。
「ひ、ひぃいいいいいいいい!」
男は俺の質問に答えることなく背中を向けて逃げ出してしまった。
はぁ、なんなんだよ本当に。
パン、と逃げていく男の頭が弾けた。
大量の脳症を撒き散らしながら、当然制御を失った体はそのままの勢いでズゥゥと地面に擦れて止まり、動かなくなった。
「はぁ、まったく余計な接種をさせられたぜ。さて、なんかもうしんどくなってきたな」
ただでさえここまで長時間のフライトを強いられ疲れていたのだ。そこ今の訳の分からないキチガイに絡まれてなんか精神的にも疲労が溜まってきた感じがする。
「いちいち情報を聞いて回るのもな、よくよく考えたらそのへんの人に聞いて回るよりも、一気にどかんと聞いたほうが早いか」
地道に情報収集をして邪神に関してのピースを集めていこうと考えていたが、そんなことをせずとももっと早い方法があるのではないかと、今思いついた。こんなところに降りるよりも早くからそれをやっていればよかったのだ。
「とりあえず、空を飛んでと」
ぴょん。
俺は先程と同様脚力だけで大空と再び舞い戻った。
そして、この街で一番高い場所――王城へと狙いを定め、宙を蹴り、加速した。