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そんなこんなで俺は転生し、異世界で生まれ変わることになった。
「えっと、ここが異世界か」
目が覚めると俺は森の中にいた。
本当に急に目が冷めたので、今までどこにいたなどの感覚は本当にない。
「まずは道を探すとするか。というかその前に俺の力ってどんなもんなんだろうな。ちょっと試してみたいな」
そう思った俺はひとまずその辺の手頃な人間の背丈くらいの大きさの岩石に、攻撃を仕掛けてみることにした。
「何がでるかな、とう!」
俺はその岩石に何かを飛ばすイメージを持ちながら遠くから殴りつけた。
すると、手の先から何かが放出されたような感覚を覚え、岩石は粉々に弾け飛んでしまった。
「す、すごいいとも簡単にこんなことが……やはり俺は最強になっちまったんだな」
我ながら自分の攻撃の威力に感動してしまう。
よくよく攻撃の跡を見てみると、直線状に地面を抉るように茶色い線が伸びていることに気づいた。要するに俺の攻撃は岩を破壊するだけにとどまらず、地面を擦りながら更に奥へと光線のように飛んでいったというわけだ。
「これなら誰にも負ける気しないな。邪神とか言ったっけ? もうこの俺様の敵ではないな、ふっ」
何なら今から出向いてやって勝負を仕掛けてもいいくらいだ。それだけで女神様からの課題は全て解決、なに、実に簡単な仕事だというわけだ。
「よし、そうと決まれば早速邪神の元まで行こう。ひとまずは邪神の場所を特定しないとな。えっと確か近くに町があるとかなんとか」
俺はジャンプし、遥か上空へと躍り出てみた。周囲を観察できるのではないかと思ったのだ。普通の人間ではとてもではないがこんなことはできるはずもあるまい。俺だからこそできる芸当である。
「えーっとどこだどこだ。あ、あったなあそこだ」
俺は遠くに町のようなものがあるのを発見した。
やはり近くに町はあったのだ。女神様が言っていたことは本当だったんだな。
俺はそのまま地面に落下するまでの時間を待っても良かったのだが、じれったく感じたため空中を蹴り、町まで一直線に飛んでいくことにした。
ばじゅん、とすさまじい速度で町までたどり着く。
町には城壁があったのだが、その上を通り過ぎ、町の中心部のどこかに派手な音を立てながら俺は着地した。
すごいだろ、これが俺の力だ。やはり俺は最強なんだ。
激しく舞った砂埃が落ちきる頃、俺の周囲には人だかりができ、俺の方を戦々恐々とした表情で見つめてきていた。ふん、そんなに俺がかっこいいか、よくわかってるじゃないか。
「うん?」
そして砂埃が晴れたからこそ気づけたのだが、俺のいる地点から近いところに数人が地に倒れているのがわかった。男もいれば、まだ若く健康そうな女なんかも横たわっている。ほぼ全員がピクリとも動いていなかった。
ああ、なるほどな、おそらく俺の今の着地の衝撃でそこにいた人間を巻き込んでしまったんだろう。まぁついてなかったな。
「さて、となればまずは情報収集かな」
俺の目的はとっとと邪神を倒してしまうこと。それが俺がこの世界に転生した意味なのだから。
「おい、そこのお前」
俺は中年の頭がはげかかってきているチビのおっさんに話しかけてみた。
なぜその男を選んだかといえば、一番近くにいたからだ。
「は、はいぃ!」
「お前、邪神とやらを知っているか?」
「い、いや、し、しらねえええよおおお!」
それだけ答えると何故かその男は俺に背中を向け一目散に走り去ってしまった。
なんだ? 何をそんなに怖がってるんだ?
しかもそれを皮切りにして、俺を囲んでいた野次馬たちも叫び声を上げたりしながら、その殆どが俺から逃げるようにして去っていってしまう。うーん、これじゃ話が聞けないじゃないか。
「あー、どうしたものかな。……あれ? いるのか」
あまりに大勢が駆けていくものだから、てっきり全員がこの場からいなくなったものかと思ったが、まだ数人が俺の方に体を向けたままなことに気づいた。
「どうしたんだよ、なんでそんなに怖がってるんだ」
俺は近くにいた戦士風の男に問いかけた。その戦士の表情は明らかにこわばっていて、まるで俺を殺人鬼かなにかとでも勘違いしているかのような表情だった。
「ひ、人殺し! お前の目的はなんだ! 俺はこの町を守る衛兵だ! お前に、お前なんかにこの街の手出しはさせない!」
そんな風に意気込んできた。えー、別に俺はこの町をどうこうしようなんていうふうには一ミリたりとも思ってないんだがな。まぁちょっと必要以上に恐れられすぎたか。まぁ冷静に考えてみればあたりまえか。なんかいきなり人を殺したやばいやつみたいになってるよな、俺。あーあ、もうこの街での情報収集はもうできそうにないかな。そそくさと情報を集めて、とっとと邪神のもとに向かおうかと思ったのに、どうやらそれはできそうにないらしい。
となればこんな町とっととおさらばしてもいいかもな。
でもその前に俺がこんなことをしでかしたって他の町に噂が伝わっていくのも嫌だから、この街の人達にはもう死んでもらうしかないかもな。そうだな、たぶんそれしかない。申し訳ないがそうさせてもらおう。
「とう!」
俺は勢いよく中指を上に突き立てた。
その直後、俺の周囲を激しい閃光が襲う。
光がやんだ後、俺は周囲は焼け野原と化し、そこには石のかけらすら残っていなかった。
ふぅ、まぁこんなもんだろ、まぁこれでスッキリしたかな。こんなもの俺にとっては朝飯ほいほい、って感じだわ。まぁ良かった良かった。これで俺の悪い噂が周囲に漏れる心配はないわけだな。
「じゃあ次はどこにいこうかな。また町を探さないといけないのか」
せっかくの町を無駄にしてしまったため、俺は次の町を探さないといけない羽目になった。
あーあ、どこにあるんだろうな、次の町は。
「まぁとりあえず飛んでいくしかないのかな」
そう思った俺はまたもや跳躍した。次の新天地を求めて、俺はどこまでも飛び続ける