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将太の事情

宜しくお願いします。

 「なあ将太、今夜暇か?」


 1日の講義が終わり、帰り支度をする大倉将太に友人の伊藤優作が声を掛けた。


「暇かって聞かれりゃ、暇だけど」


 バイトの予定も無い将太、今日はゆっくり自宅アパートで休む予定だった。


「なら付き合え、合コンにキャンセルが出て男の頭数が足りないんだ」


「パスだ」


「即答だな」


 にべもなく断る将太、彼は深刻な危機に瀕していた。


「金が無い」


 将太は二年前から知り合いの家庭教師をしており、先日無事に教え子を志望校に合格させた。

 それは良いが、最後の1ヶ月間は追い込みに熱が籠り、他にバイトを入れなかった。


 連日の5時間に及んだ家庭教師。

 生徒の家は普通の一般家庭、約束の5倍以上も授業をした将太は追加報酬を断ってしまったのだ。


「相変わらず、お人好しだな」


「なんとでも言え」


 事情を聞いた優作が呆れ顔で将太を見る。

 いくら知り合いだといっても、自分の生活を脅かすまで打ち込むのは本末転倒だった。


「心配するな、金は出してやる」


「いらん、ただより高い物は無い」


 三年前に実家を離れ一人暮らしの将太。

 奨学金の借り入れを極限まで抑え、実家の援助すら殆ど断っている。

 いくら公立大学で学費が安くても、限度があった。


「そんな事言うなって。

 何と相手は敷島女子大だぞ?」


「だから?」


 敷島女子大といえば、国立の名門女子大。

 格式も高く、その名は近隣に響いており、男子大学生羨望の的だった。


「頼む!やっと漕ぎ着けたんだ」


「他を当たれ」


 必死な優作の頼み、しかし将太は首を縦に振らない。


「なんだよ、新しい彼女が怖いのか?」


「そんな人は居ない」


 優作の言葉に将太の表情が強ばる。

 恋人と呼べる人は居ない将太だが...


「隠すなよ。先月駅前の本屋で見たぜ、可愛い子だったじゃんか」


「...見てたのか」


 確かに先月、将太は一人の女性と本屋に居た。

 しかし、それは恋人では無かった。


「家庭教師先の子だ」


「あれが、そうなのか」


「ああ」


 将太の胸が疼く、その子に恋心を抱いていた訳では無い。

 その子は元カノの従姉妹。

 そして将太は元カノと一年前に別れていた。


 「早く忘れろよ、いつまでも引き摺ってたら学生生活が勿体無いぜ」


「...そうだけど」


 その通りたが、まだ将太は元カノを忘れられない。

 例え一方的にフラれた相手だとしても。


 将太の元カノ、小豆畑(あずはた)杏。

 将太とは高校二年から付き合いだした。

 杏がこの街にある聖ハリム女子大に進学するのに合わせ、将太も地元を離れ、近くにある現在の大学へと進学を決めた。


 両親は反対したが、猛勉強で二つも偏差値ランクの高い大学を合格した将太に折れた。

 しかし、一人っ子である将太が家を出る事は最後まで賛成されなかった。

 だから金銭の援助を言えないのだ。

 その事は親しい友人で口も固い、優作にしか話して無かった。


「顔だけ出してくれ、お前の分の料理はテイクアウトで詰める様、店に頼んどくから」


「良いのか?」


「ああ、だから乾杯まで頼む」


「分かった、助かるよ」


 将太の家にはカップラーメンしか無い。

 新しいバイトはまだ給料前、将太にとって魅力的な言葉だった。


「ここだ、粗相(そそう)の無いようにな」


「はいはい」


 優作の案内で予約していた店に到着する、他の学生は既に待っていると聞いていた。

 合コンだから居酒屋くらいを想像していた将太だが、そこはお洒落なレストラン。

 普段着の将太は気後れを感じながら店内へと入った。


「お待たせ」


「いや時間通りだ」


 予約していた個室に入る。

 中は八人掛けのテーブルが置かれ、両側に各々4人が並ぶ様にセッティングされており、優作と将太以外は既に着席していた。


「ありがとな、将太」


「いや、大丈夫だ」


 席に座る将太に礼を言う男性。

 余り人付き合いの良い方では無い将太が来てくれた事に感謝していた。

 背が高くイケメン、本人は自覚していないが、話も面白い将太は女子からの人気も高かった。

 もっとも、今までは彼女に一途で他の女性は眼中に無かったが。


「それじゃ揃ったところで始めます。

 先ずは自己紹介から、光輝市立大学法学部三年、伊藤優作です趣味は...」


 幹事である優作の仕切りで始まる。

 今まで合コンに参加をした事の無い将太、自己紹介は最後になった。


「法学部三年の大蔵将太です...」


 簡単に自己紹介を済ませる将太。


「趣味は何ですか?」


「えー趣味は...読書かな」


 対面に座っている女性達から質問が飛ぶ。

 場の空気を壊さない様に笑顔で答えた。


「どんなジャンル?」


「それは...」

「...戦記物でしよ、ミリオタ...」


「え?」


 目の前に座っていた女性が小さな声で呟く。

 周りは気づいて無いが、その声に将太は女性の顔をじっと見詰めた。


 「...マジかよ」


 女性の顔を見た将太の表情が固まる。

 それは幼馴染みで、中学時代の彼女、倉田美園(みその)だった。


 「どうした知り合いか?」


 「あ...ああ」


 将太の様子に優作が尋ねる。

 取り繕う事も忘れ、将太は小さく頷いた。


 「美園、紹介してよ」


 色めき立つ女性陣、美園は小さく微笑みながら言った。


 「大倉将太、幼馴染みよ。

 高一で私が転校しちゃちゃったから、5年振りになるかな?」


 「へえ~幼馴染みか」


 「羨ましい!」


 「運命の再会だな」


 口々に盛り上がる仲間達に変わらぬ笑顔の美園。

 しかし将太は美園からの視線に、背中から流れる大量の汗を感じていた。


[倉田美園]

 中学一年から美園の告白で付き合い始めた。

 お互いのファーストキス、そして初体験も。


 しかし美園の転校で二人は遠距離恋愛となり、恋人関係は自然消滅した。


 ...実際は将太に、好きな人が出来たからだった。


 それは美園にも。

 しかし将太はまだそれを知らない...

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだか作者様の物語にしては珍しく クズが出てこない これから登場? それともこのままヒューマンドラマか [一言] 新作ありがとうございます 普通過ぎて(失礼)意表を突かれております 続…
[一言] ああでも、良く見たら中1で、幼馴染彼女からの告白で付き合い始め、高1で彼女転校で、遠距離恋愛になり、やがて自然消滅、多分高2にて(裏ではお互いに他の人間好きになった)。 で、高2から新彼女と…
[良い点] 新作感謝。 [気になる点] 中学時代の彼女とは長距離恋愛となり、自然消滅(内実は、将太の方が好きな子出来たので、まあありがち)。 で、将太は大学時代に逆に、彼女に好きな人出来たからとフラれ…
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