サクソン帝都の暗部
「うむ!帝都が見えてきた!」
「おぉ〜!」 「こんなに安全だったのは初めてだ!」
「トレノ様!」「トレノ殿!」「トレノ様!」
「ハハハ!トレノ!良かったではないか!住民に喜ばれているぞ」
「中将!?茶化さないでください!」
「ミラちゃんありがとうね。爺さんも私もこんな歳だからお礼なんてできないけど、よければここに訪ねてきなさい。住所だから」
例の子供に呼ばれた老夫婦の人達か。ミラがほとんど着ききっきりだったからな。御礼がなにかとはなんかは聞くまい。あれはミラの報酬だ。
それにしても昨日は参った。中将が変な事言うもんだから自棄になり作り出したハンバーガー擬き・・・地球のハンバーガーがどんな味かは分からないがそれなりの味だったのだろう。
「それにしてもトレノ殿のあの肉をパンで挟むやつは美味しかったですな!あれが二度と食べられない事がおしいです」
「大した事ありませんよ」
大した事は実はある。ソースがなかったし、せっかく披露するなら美味しく仕上げたかったため、ルクスと一緒に作ったのだが、ソースの煮詰め時や、甘味と旨味を出すため、肉を焼く時なんかはコカトリスの脂で焼き、風味には香草を入れ、少し包み込むという時間の掛かる事をした。
そしてなんと持って来ていたパンをほとんど使うくらいに好評だった。
「ふふふ。余裕ができれば帝都にお店でも開いてみましょうか?出資は私よ」
「エリンダ様までお戯れを」
「いいえ?私も貴族の色々な会に出て、一流の料理人の食べ物を食べてきたけど、ダントツに美味しかったわよ」
エリンダ・ガース女史・・・この人がいう冗談は冗談になりそうになくて少し怖い。料理人は俺はなりたくない。
最後は着いて来た人達みんなで談笑しながら帝都のでかい正門まで到着した。さすが帝都というだけある。ドローンで事前に知ってはいたが、なんといってもやはり石造りの城壁は凄い。そして大きい門。素晴らしい。
「エリンダよ。後ろの者10名弱は私の供の者よ」
「はっ!エリンダガース様!お帰りなさいませ」
このサクソン帝都も他の栄えた街同様に区画に分かれている。それは正門を入った直後からだった。
街への中心へ向かうにはそのまま真っ直ぐに行けばいい。左が住民街、右の馬車が離合できるくらい大きな道は貴族街へ通じる道らしい。
俺達はそのままルイン達の後ろを歩く。シルビアやミラは緊張した目、ルクスは無表情。中将は好奇心溢れる目だ。中将のAIのオリビアもまた無表情だ。
15分程歩く。周りの建物は一際大きな建築物に変わっていた。所々、豪華な装飾がされた家があったり、お店らしき建物もありはしたが明らかに格が違う店作りのように見えた。
貴族街というだけはある。どれもこれも豪華だ。そして、その奥に見えるのがお城だ。お城は更に大きい。お城には更に城壁があり、櫓のような物まで見える。城に近づくにつれ更に大きく豪華な建物が多く並んでいるように思う。
そしてここで中将が俺に話しかけてきた。
「トレノ?この道程で分かった事はあるか?」
「分かった事と言いますと?」
「一見、緩やかなカーブに見えて法則があるように思う」
確かに規則性があるような道に見えてそうにも思わないとは少し考えていた。ただなんとなく思うのは、もしここに大軍で攻め込まれても隊が分断され、両隣の高い建物から攻撃されそうな感じはする。
そして道は自然に少し左下りにバンクしている。つまりはもしどこかの国に攻め込まれてもこの迷路のような道で食い止められるという事だ。これはドローンで見た時から思っていた。
城を最奥に作りその他建物で防ぐ。仮に突破されても更に城壁が存在する。ここの王様は余程負けず嫌いなのか、絶対に攻め込まれないような作りだ。
「行軍しにくい場所ですね」
エリンダ女史や暁のパーティーもいるから簡潔に答えた。中将はオレが軽く言った事を納得したのかそれ以上は何も言わなかった。明日、明後日という事はないが、ここをいつか落とすんだよな。中将の頭は既にその事を考えているのだろうか。
「お帰りなさいませ。エリンダ様」
「ただいま。ユーリアス!新しくできた私の供よ。失礼のないようにね」
「これはこれは・・・ガース家の執事長をしております、ユーリアスと申します」
「トレノ・リアクと申します。こちらはシルビア、ミラ、ルクスです」
「トレノ様にシルビア様、ミラ様、ルクス様ですね。そちらは・・・」
「私はミシェル・ロアーク!そして私の護衛でもあり相棒でもあるオリビアだ」
「ミシェル様にオリビア様ですね。御用があればなんなりとお申し付けください」
「トレノさんにミシェルさん、気にせず入りなさい。貴族街の中ではそんなに大きくはないけど、旅の疲れを癒すくらいの広さはあると思うわよ」
エリンダ女史にそう言われ、家を見ると確かに大きな家に思う。貴族街でもちょうど真ん中くらいだろうか。ここより大きい家は他にもあるが、ここも普通に大きい。エクセルシオのマンションを二つ合わせたくらいの大きさだ。
とりあえず・・・もし許されるなら体を洗いたい。暫く綺麗にしてないしな。中将も女性だから・・・いやこの考えを言うのはやめておこう。中将は男性として見ておかなければ。
「なんだ?トレノ?何か思うところがあるのか?」
「あ、いえ!なんでもありません」
「曹長はミシェル中将を女としてーー」
「ダァァァーー!!ルクス!辞め!辞め!!」
「そういう事か。ルクス!褒めておこう!トレノ!後で腕立て100だ!覚えておけ!」
ルクス!!覚えてろよ!
「エリンダ様!お帰りなさいませ」
「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
家に仕えている人達みんなの顔が良い。これを見るだけでエリンダ女史が良い人なのかと伺える事ができる。
「ただいま〜。みんな聞いて驚くわよ!なんとドラゴンスレイヤー様よ!はい!トレノさん!挨拶を!」
は!?なんで挨拶なんかしなくちゃならないんだ!?これだから貴族というのは分からん!
「奇跡的にドラゴンを討ったトレノと申します」
「もう普通すぎるわね?まぁいいわ。みんな!この人達は私の知り合いになったから丁寧にしなさい!サイラ!あなたはこのトレノの上司のミシェルさんと、シルビアさん、ミラちゃんに着きなさい!」
「はい。ガース家メイドのサイラと申します。なんなりとお申し付けください」
「うむ。ミシェル・ロアークだ。こちらはオリビア。よろしく頼む」
「シルビアです!よろしくお願いします!」
「み、み、ミラと申します!よ、よろしくお願い致します!」
「ふふふ。ミラちゃんは面白いわね。そんな緊張しなくていいわよ。家は自由に使いなさい。とりあえず・・・大浴場の準備は?」
「はっ!今致しております!」
「そう。ならすぐに支度を。その後はサクソン料理を準備するように」
聞いて驚いた。街の作りは凄いが、まさか大浴場があるとは思いもしなかった。
"曹長 今の考えは差別的ーー"
"分かった!分かった!冗談だって"
「エリンダ様、俺達は一度ギルドに行って任務完了を伝えなくてはいけないので一度出ます」
「あっ、そうだったわね。トレノもギルドに一度行った方がいいのじゃないかしら?」
「確かにそうですね。じゃあ俺も行きますね」
「街に詳しくないんでしょう?ルイン!ちゃんと案内してあげなさい」
「分かりました。トレノ?行こう」
「あぁ。シルビアやルクスは休憩してていいよ」
「そんなわけにはーー」
「トレノ!ルクスは連れて行け。シルビアとミラは私が面倒見ておこう」
「すいません。ミシェル中将。よろしくお願いします。うん?エリンダ様?何かおかしいですか?」
「ううん?いや、あなた達の関係ももっと知りたいと思ってね?ふふふ。今日の晩餐が楽しみだわ」
確かに簡単にしか俺達の事は言ってないからな。
「とにかく・・・行ってきます。ルクス!行こう」
「はい!」
"曹長!?"
"分かってる。少し距離があるけど監視されてるな。街に来てから分かってる"
"ミシェル中将もだから私を着けるように言ったのでしょうか?"
"あぁ。多分な。とりあえず様子を見よう"
"了解致しました"
「ははは!それにしてもトレノは面白いよな。料理もできて、エリンダ様の覚えもいいようだしな」
「おい!ルイン?その言い草はないんじゃないか?」
「いやいや、悪い!悪い!さぁ、ここだ!」
「凄いな。オギゴのようなギルドの倍近くは大きいぞ?」
「まぁな」
"曹長、3人から7人に増えたようです"
"放っておいていいよ。さすがに手出しはされないだろう。俺達がどんな感じか調べられてるだけだろう"
"分かりました"
「ルイン様!お帰りなさい」
「うん。任務完了だ」