干支の間
「今年の干支?」
「そうです、そうです!」
「んー、鶴年だっけ? 亀年だっけ?」
「どっちも違いますよ! 鶴も亀も十二支に入ってすらないです!」
「あれ、そうだっけ? んじゃーふくろう年? カエル年?」
「縁起良さそうな生きてるやつ並べればいいってもんじゃないですからっ」
「えー、だって十二年ぶりだし、ぱっとは思い出せんからさあ。で、正”解”は?」
「だから僕には言えないんですって、さっき説明しましたよね? 話ちゃんと聞いてました?!」
「聞いてた、聞いてた。俺以外はその動”物”に言及できんって話っしょ? そんじゃあ、直接名前は言えないにしても、ヒントとかないの?」
「ええっと、だから……あの白いミルクとか……、あ、ミルクは言えました! 我々もミルク飲んでるじゃないですか、朝に、パックのやつ」
「パックって、ビニール製? 紙製?」
「そこどうでもいいですよね? 干支です、干支の名前を早くお願いしますってば! もう既に下界じゃ大変なことになってるんですから!」
「ええー、だって干支が選出できちゃうくらい”特”別偉い俺よ? ミルクだけじゃヒントとして弱いっていうか。俺色んなミルク貢がれるし」
「だあーかあーらあー! 一般的なやつですよ。白と黒の模様がこう目立つ体の」
「分かった、分かった。あいつね、ヤギ」
「ちっがいますよ! ふざけないでください!!!」
「いやあ、ごめんごめん、君おちょくるの楽しくってさあ」
「おちょ? ってことは、さては最初から分かってましたね、大帝! 僕がこんなに一生懸命に必死に事態の収拾のために尽力してるっていうのに!」
「だからごめんって。”牛”さんでしょ? 今年の干支担当は。で、その”牛”がどうしたの?」
「だから現れないんですよ。もう今年に入ってだいぶ経つのに、干支の間に来ないんです。そのせいで下界からすっぽり抜け落ちちゃって、各地で大騒ぎですよ」
「大騒ぎ? たかが干支一匹でそんな大袈裟な」
「ほんとですって! 見てみてくださいよ。今、下界に中継繋げますから」
『――ということで、こちらは神社の前に来ています。今年の干支の、ええと例の生きてるやつですが、未だ行方不明ということで、見てください。現在白黒のぶちをまとったネズミ様が、前年に続き干支代理を任されている模様です。それではこれから、去年の干支の――』
「あー、なるほど?」
「他のところだってですね」
『――ですが、商売の方はいかがですか?――は? いかがもくそもねぇわ! こちとらあの例のやつの肉で、商売やってんだ! 何の肉かも言えねぇ状態で、この店の看板背負える訳ねぇだろが! 丼屋だけじゃあ、何の丼か分からねぇだろ――』
『――って言ってんでしょ? 白と黒のぶちの生きてるやつって思われがちだけど、その実、黒とか茶色とか、角付きとか色々あるのよ、あれは。その革をこうやって加工して靴にして、細長くてくねくねしてるこれを通して――』
『――以上、家畜系の生きてるやつを集めた場所からのリポートでしたが――』
「ははあ、そういうことか。”牛”丼屋の親父さんに靴工房の姉さんに”牧”場の若”造”くんへのインタビューと。”牧”場のボクの字にも”牛”が入ってるから使えんと、そういうことね。家畜系の生きてるやつを集めた場所、なんてよく考えたなあ」
「ついでに言えば、工房の女性が持ってた細長い方もですよ」
「細長い方って、靴”紐”? ああそっか、ヒモにも”丑”が入ってるから、下界の民達には言語化できないんだ?」
「事の深刻さ、分かっていただけました? 干支の間の生きてるやつに、この国の発展がかかってるんですから。さっきの丼屋さんだって、十二年に一度のヒットに向けて準備してたのがこんなに待たされて、たまったもんじゃないですよ、きっと。逆に去年で終わるはずの黒ゴマラテが売れ続けで、それはそれで逼迫状態ですよ」
「黒ゴマラテ? どっから出てきたんだ、ってあれか。鼠色だからって、下界で去年爆発的に流行りだしたんだったな。俺も貢”物”で一回飲んだっけな」
「大帝、三回は飲んでましたけどね。とまあ、現状は分かっていただけたと思うんですけど。で、他の方々にも協力を仰いで探してもらっているんです、今年の干支。で、どうも十二年前に退座してからの記録がごっそり抜け落ちていてですね。もう後は大帝のところくらいしか思いつかないんですよ。何かご存知なことがあれば、どんな些細なことでもいいんです、教えてください!」
「うううん、そのー些細というか、何というか」
「何です?」
「失敗だったなあ、ここまで問題が起こるとは思わんでね」
「つまり?」
「犯人、俺だわ。すまん」
「は?」
「ほい、これ。干支の間で引き継ぐはずの”牛”さんがいる場所の地図と鍵」
「ちょっ、ご自分が何をしでかしたのか分かってます?!」
「まあまあ、それはとりあえず置いといて。急ぐんでしょ?」
「い、急ぎますけど! 帰ってきたら、ちゃんと説明してくださるんでしょうね?!」
「あー、はいはい。後でね」
「絶対ですよ! 干支の間に今年の干支送り届けたら、直ぐ帰ってきますからね!」
「ほいほーい、いってらっしゃーい。――っとやべえな、こりゃ帰ってきたら”酷”くどやされそうだし、ちょっくら視察も兼ねて下界で”蟹”でも食ってくるかな。そこは”牛”肉じゃないんかーいってな」




