神のお告げ
初投稿です。よろしくお願いします。
透き通るようなその綺麗な声は僕の脳に直接響いた。
「あなたは『魔女』です」
魔法の存在するこの世界では10歳になるのと同時に儀式が行われる。これはどこの国にいても、どんなに田舎でも共通のもので教会にてお告げを受けるのだ。
自分の役割、自分の仕事、自分の特性。
そこで告げられる言葉はさまざまだが、その人の人生において深い意味を持つことになる。
俺、エリシャ・ウィンターも例外ではなく、10歳となったこの日にお告げを受けていた。そしてその声は確かに言った。
『魔女って……俺は男ですよ?』
脳内に響くその声の主に届くかはわからないが、祈りながら心の中で叫ぶ。すると意外にもすぐにその返事はあった。
『関係ありません。あなたは魔女。魔法に愛された者。あなたはその力で自分の道を切り開くのです』
透明な声はだんだんと遠くなって消えていった。儀式が終わったのだと言うことがわかった。
釈然としないまま儀式の部屋を出ると神官の人が「お疲れ様」と声をかけてくる。俺はそんな彼らに会釈をしながらそそくさと教会を出て、家に戻った。
考えても考えても自分が『魔女』というのは意味がわからない。
確かにエリシャは魔法が得意だったが、特別優れた何かがあるわけではない。並よりはできるという程度で稀代の天才というような存在ではない。
そんなことを考えながら玄関を開ける。家では母が料理をしていた。
「ただいま、母さん」
母は手を止めてこちらを振り向くと笑って「おかえり」と返した。
「エリシャ、どうだった。お告げは」
「それが……俺は『魔女』らしいんだ」
俺が素直に伝えると、それを聞いた母はふふっと上品に笑った。
「エリシャは女の子になるのかもね。私の時は『模範となるような教師になりなさい』だったな。エリシャの将来が楽しみね」
母は王都の魔法学校で勤めていた優秀な教師だったと聞いている。過去形なのは俺を産むのと同時に退職したから。
「やめてよ。確かに魔法は得意だけど女じゃないし」
「そうね。でも少し羨ましいかも。私のお告げは明確だったけど面白くはなかったから」
「そんなことないって。俺は母さんのこそ羨ましいね」
将来が決められている。それがどんなに楽なことか。
「疲れたから少し寝る」
俺はそう言って階段を上がり、自分の部屋のベッドに飛び込んだ。母さんの「その制服を脱いでからにしなさい!」という怒鳴り声がどんどん遠くなり、そのまま俺の意識は微睡の中に吸い込まれていった。