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死神少女は不満が多い

作者: 粥谷薙

オリジナル小説初です。

 世間では時たま、心霊現象と呼ばれる科学では説明出来ない現象が起こる。そのほとんどはこの世に留まっている死者の魂が引き起こしているのだが、それらを解決する、巷では空想上の存在とされている者達がいた。

 その者達の呼び名はーーー死神。



 私の名は狩命丸死威奈、17歳。死神としてこの世を彷徨う死者の魂をあの世に送る事を生業としている。

 依頼が無い限り普通の人間と同じ生活をし、仕事の時には黒フードに大鎌を携え依頼主の元へ向かうのだが、この黒フードがダサいことこの上ない。死神のイメージ画像やタロットに描かれているような足も隠れるほどの長いものではなく、上下別のジャージという明らかに製作費をケチったデザインなのだ。

IQ168の赤ジャージヒキニートの黒色verじゃあるまいし。

 そう心の中で不満を零していると、依頼主の家が見えてきた。迷ったり間違えないよう、あらかじめ依頼主から住所と家の写真を送ってもらうのだが、大抵の家は霊が出そうな感じの見た目であり、今回も例に漏れずボロボロの木造住宅だった。


「お待ちしていました。私、浄霊を依頼した家造匠と申します」

「死神の狩命丸死威奈です。今回の依頼について、お話をお聞かせください」


 マニュアル通りの挨拶をして、私は依頼主から話を聞いた。

 依頼主曰く、このボロ家は自宅ではなく、友人から安く買い取った物らしい。元々大工仕事が好きで、この家は初めてのリフォームに挑戦するために買ったそうなのだが、買ってしばらくしてから『そうじゃない...』だの『そこじゃない...』という声が聞こえ、最近遂に『出て行け〜...』という声まで聞こえるようになり、浄霊を依頼したとのことだった。

 話を一通り聞いて私が最初に思ったことは、『悪霊じゃありませんように』だった。

 悪霊かそうでないかは、浄霊をする上で大きく違う。悪霊でなければ未練を叶えればすぐ成仏するし、そもそも自分が死んでいると気付いていない場合もあるので、そう伝えると『あっ、じゃあ』みたいなノリで成仏してくれるので楽なのだ。

 しかし悪霊の場合、最初に未練を聞き出すこと自体が困難だし、聞き出してそれを叶えたとしても『まだまだやりたいことが〜』と、要求がエスカレートしていくこともある。そうなると鎌の出番となり、強制成仏させることになる。ただ悪霊とのバトルは冗談抜きで命懸けで、その結果殉職した同業者も少なくない。

 私は命が惜しいので、現場に入る時に必ず『悪霊じゃありませんように』と三回唱えてから入る。今回もそうしてボロ家を進んでいくと、リビングと思われる所で正座している女性の霊を見つけた。その霊は私に気付くと、酷く悪い顔をしてこちらに近付いて来た。


「誰、アンタ......?」

「このボロ家に留まる熟女霊さん。貴女の未練を」

「出て行けぇ〜〜〜」


 私の話を全く聞かず、オバさん霊は攻撃してきた。こりゃ悪霊化してるな...と溜め息を吐きつつ鎌を構えると、突然嗚咽を漏らし始めた。今なら未練聞けるかな...と思ったが、話しかける前に暴れ始めたので、ひとまず攻撃を躱す。


「あの日...あの日に地震さえ起きなければ〜!!」

「...はい?」

「元々この家は私と私の旦那が住んでたの。なのに三年前、地震で崩れた家の下敷きになって私が死んだ時、旦那はこの家を売りに出しやがったのよ!リフォームが趣味っていうあのメガネが買ったのは良いけど、この家の原形が分からなくなるようなことばかりするから、もう不満が溜まりまくってるのよ!!」


 プツン。


 自分でも、そんな何かが切れたような音がしたような気がした。この悪霊の未練はこの家なのだろうけど、そんなこと関係あるか。私のこと殺しにかかってるんだし、何より..........


「私の方が現状に不満があるわよぉーーーーーッ!!!」


 言いながら私は、持っていた鎌を悪霊目掛けて振り下ろした。真っ二つになった霊が断末魔をあげながら消えていくのを見届け、私は依頼主が待つ庭へ戻った。


「どうでしたか?何か大声で怒鳴られてましたが...」

「いえ、こちらの話ですので、ご心配なく。浄霊も完了したので、もう大丈夫ですよ」

「そうですか!では報酬の方を用意いたしますので、しばらくお待ちください!」


 浄霊完了の報告を受けた依頼主は、車に乗って走り去って行った。

 今回もこの時が来たか...とげんなりしている私をよそに、十分ほどして依頼主が茶封筒を片手に戻って来た。


「どうぞ、報酬の三千円です!お受け取りください!」


 そう満面の笑みを浮かべながら、依頼主は私に茶封筒を出してきた。

 これこそが最大の不満、報酬の低さだ。依頼の難易度に関係なく、成功報酬一回三千円。これが死神界のルールであり、この時の骨折り損感は何回味わっても慣れない。

 命の危険もあるのだから、もっと高くても良いじゃないか。そう思いながら茶封筒を覗いても、中には英世が三枚のみ。

 その現実を受け入れ報酬を受け取り、愛想笑いを向け依頼主の家を後にする。そして周りに誰もいなくなった所で大きく息を吸い、叫んだ。


「報酬金額上げろ、ブラック企業めーーーーッ!!」



 バイト、増やそうかな。そう思いながら、終電間近の駅に向かって走り出した。

 後ろで犬の遠吠えが聞こえたような気がした。






おしまい

シリーズ化はしません。オリジナル小説もう少し練習したいので。

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