最初は友達っていう話でした。6
だから、俺は綾女さんが言った、「一緒に日々を過ごしていただけたなら」という言葉の意味を深く考えずに聞き流してしまい返事をしてしまった。
「はい、俺でよければぜひよろしくお願いします」
綾女さんも笑顔のまま、
「こちらこそよろしくお願いします」
と俺に合わせるように頭を下げた。
「では、戻りましょうか」
そう言って再び綾女さんはドアをノックする。
ドアの向こうから小さな足音が聞こえてしばらくすると、
「どうぞ」
とその部屋の主の声がした。
「失礼します」
中では花陽が出る時と同じく文庫本を開いていた。その様子を見た綾女さんはくすっと微笑んで、
「お嬢様、少しよろしいでしょうか? 」
と切り出した。
「何かしら」
文庫本から視線を離すことなく、彼女が返事をする。
「はい、実は今さっき鳥飼さんと話し合ったのですが、やはり花陽さまには友達が必要だろうということで、それでしたら鳥飼さんが自分が花陽さまと一緒に過ごして友達作りのサポートをしたいと申し出てくれまして」
どうやら綾女さんは、あくまで俺から言い出したということにしたいようだ。俺は彼女に引かれはしないか心配になる。俺? 俺はもちろん彼女に惹かれていますよ。
そんな綾女さんの言葉に対して、彼女は少し固まったかと思うと、文庫本を机において、
髪で顔を隠して何やら小声で言い始めた。
「央紀君が私と一緒に過ごす? 一緒に過ごす? 」
何を言ったのかは俺には聞き取れなかったので、ただそれが拒絶の言葉ではないことを祈るのみである。
俺と綾女さんの視線が集まっているのを彼女が感じ取ると、何でもなかったかのように文庫本を手に取り、
「そう」
と短く返事をした。
「いかがでしょうか? 」
くすっと微笑みながら綾女さんが尋ねる。
「ま、まあ、央紀君がどうしてもっていうなら吝かではないわね」
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