今度は二人きり
文化祭に向けて、また今後の活動のためにも涼音さんの講義を受けて、あっという間に日々は過ぎていく。
というわけで、テストの一週間前となり、今日から部活動は禁止となった。
その翌日の休日。俺はテスト範囲のノート等を見直しながら自室で勉強していた。
その時、スマホが震えた。
見ると、縷々からのメッセージが入っていた。
内容は、
「今から王立図書館で一緒に勉強しない? 」
というものだった。
俺は少し考えて、
「じゃあ、行くわ」
と返信した。
図書館の2階は談話室になっており、そこなら声を出しても大丈夫なのでおそらくそこで勉強するつもりなのだろう。
それに、場所を変えて人の目がある空間で勉強した方が、集中もできるだろうと言う思いもあった。
自転車を走らせ、学校の近くにある図書館に向かう。
2階の談話室に向かうと、すでに縷々が座っていた。
「早かったわね」
縷々が俺の姿を見つけて声をかけてくる。
「あれ、縷々一人? 」
てっきり、他の科学部のメンバーも誘っているもんだと思っていた。
「そうだけど、まずかったかしら」
「いや大丈夫」
俺はそう言いながら、縷々の対面の椅子を引いて座り、教材を机の上に広げる。
「やっぱり、ライバルがいた方がいろいろ教えあったりもできるし、効率が良いかと思って」
と縷々が趣旨を説明してくる。
「俺も、一人だとさぼりそうだったから誘ってくれてよかったよ」
「そう言ってくれると安心する。じゃあ、続きを始めましょうか」
縷々のその言葉を合図にして、俺たちはそれぞれの課題に取り組み始める。
しばらくして、
「ねえ、央紀ここなんだけど」
とノートを差し出しつつ縷々が近づいてくる。
赤みがかった髪の隙間からのぞく、整った顔が近づいてきたので、俺は思わずじっと見てしまう。
その沈黙が気になったのか、
「央紀? 」
と縷々が声をかけてくる。
その言葉で我に返り、縷々の差し出したノートの方を見る。
「これって、何でこうなるの? 」
幸いにも得意な分野だったのですぐに答えることができた。
「ありがとう」
そう言って、こっちに近づけていた顔を引っ込める。
しばらくしても、いい匂いが俺の方まで漂い続けていた。
「ねえ、央紀って、花陽さんがいるからこの学校に転校してきたの? 」
また少し経った後、なんてことのないように縷々が尋ねてきた。
「え、何で? 」
「だって、今ではみんなもう慣れたけど、最初のころはあの花陽さんが綾女さん以外の人と登校してくるなんてって噂になっていたじゃない。ということはもとから知り合いだったってことでしょ」
確かに、最初のころは学校での反応はそんな感じだったと思いだす。それについて尋ねられたこともあった。
そして、縷々が言うように俺たちはもとから知り合いだった。
「確かに、俺と花陽は幼馴染だけど、花陽がいるからこの学校に来たんじゃないよ」
と否定する。
正直に花陽の友達作りの手伝いをするために転校してきたというのもどうかと思ったからだった。
「じゃあ、何で転校してきたの? 」
縷々はさらに尋ねてくる。
「それはたまたま、交換留学のような制度ができて興味があったから」
「そう」
と縷々はそれ以上尋ねることもなく、お互いに自分の勉強に戻っていった。
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