光堂寺花陽の一歩
放課後、他のクラスからも文化祭の準備の声が聞こえる。準備は本格的に進んできている。
一方俺たち科学部はと言うと、文化祭の出し物が、綾女さんの料理をコピーさせたロボットの料理に決まったため、あまり俺たちにできることはあまりなかった。
それならばということで、この時間を利用してこれから役に立つからと言われ俺たちは、科学部の部室で涼音さんのプログラミングについての講義を受けていた。
1時間ほど経ったところで、恒例のお茶の時間となった。今日は花陽のクッキーが出ていた。
「このクッキー美味しいわね、学校の前のところにあるあの店の? 」
「一応私が作っています」
と縷々に対して答える。
「うそ、これって光堂寺さんが作っているの? 」
「はい」
「すごっ」
そう言えば縷々は花陽のクッキーを食べるのは初めてだったか。それならば驚くのも無理はない。本当においしいもんな、これ。
その横では、涼音さんも同じだというように頷いていた。
「ねえ、今度料理教えてくれない? 」
縷々がそんな提案をした。
「私にですか? 」
「うん」
「うーん」
としばらく考えていた様子の花陽だったが、(考えている姿はやはりというか綾女さんに似ていた)やがて、
「私でよろしければ、それでいつにしますか? 」
「本当、ありがとう」
「……あの私もよければ教わり、たい。料理苦手だから」
二人の会話に涼音さんが入ってくる。
「涼音さんもですか? もちろんいいですよ」
「……ありがとう」
「ただし」
そう言って、そこで言葉を区切って続きを言う準備をするかのように何回か息を吸ったりはいたりした後に、
「教えるには条件があります」
「条件? 」
「……何? 」
「はい、お二人のことをそれぞれ名前で呼んでもいいでしょうか。また私のことも花陽と呼んでほしいです」
「何だそんなこと、もちろんいいわよ、これから改めてよろしくね、花陽さん」
「……よろしく花陽」
「ありがとうございます、縷々さん、綾さん」
そしてほっとしたように笑顔を見せる。その笑顔は教室に差し込んでくる夕日と相まって、まさに名前のように陽にあたる花のように輝いた笑顔だった。
俺はその輝きに言葉が出ず、ただ見惚れてしまった。
それにしても、花陽の進展はすごいものである。
どんどんと自分で進んで行く。友達なんて必要ないと言っていたのに何か心境の変化があったのだろうか。
それに比べて俺は同じところでずっととどまっている。
「で、いつにしましょうか? 」
花陽が話を戻す。
「うーん、今はテストとか文化祭があるし、それが終わってからとかでもいい? 」
「……私もそれで大丈夫」
「分かりました。では文化祭後にしましょう」
3人の間で話がまとまったようだった。
その後は再び涼音さんの講義へと戻って、最後に実際に部室にあるパソコンを触ったりしてその日は終わった。
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