続科学部再始動パーティー。2
「鳥飼さん少しよろしいでしょうか? 」
夜の闇も広がって、そろそろパーティも終わりだという時間になってきたとき、俺は綾女さんに声をかけられた。
「はい」
「ではあちらにお願いします」
と示されたのはベランダだった。
言われるままに席を立ちベランダへと向かう。
料理で火照った体に夜風が気持ちいい。
二人でベランダの手すりに体重をあずけながら外を眺める。
「ありがとうございます」
少しして綾女さんがこちらを向いてお礼を言ってくる。
「いえ」
と俺は返すが、綾女さんは、
「花陽さまの周りに人が集まったのは、鳥飼さんのアドバイスのおかげですから」
と続ける。
「アドバイスですか? 」
何のことかとっさに思い出せずに聞き返す。
「ええ、万梨が少し花陽さまから離れた方がいいのではないか、と言ってくださったのは鳥飼さんだと聞いています。花陽さまを守るという気持ちが強すぎて周りの生徒にどうみられているかの視点が私たちには欠けていました」
反省するようにそう言うが、そもそも花陽を思ってのことだと分かるだけに、俺は何と返すべきか分からず黙っていた。
綾女さんはさらに続けて、
「しかも部活動にも入ってくださって、ここまで物事が進んだのも鳥飼さんのおかげです」
と言う。
「部活動は花陽さんがやりたいところが見つかっただけで俺の力というわけでは」
「いえ、今まではそのやりたいことを積極的に言いだすような子ではなかったのです。この変化のきっかけとなったのは、間違いなく鳥飼さんのおかげですよ」
とここまで褒められると悪い気はしない。
「そうですかね」
とだんだんとそんな気がして来るから不思議である。
「後は、花陽さまと鳥飼さんの友達作りも改めてお願いしますね」
そうだ、そのために頑張ってきているのであった。
そう言うと、綾女さんはみんなの元へと戻り俺もそれに続く。
部屋に戻ると、女子4人は何やら盛り上がっていた。
が、花陽と万梨の二人は何となく恥ずかしそうにしているようにも見える。
何かあった?
と、声をかけると、
縷々が、
「文化祭の出し物が決まりそうなの」
と返してくれる。
「本当? 」
と俺が言うと、
「……料理を出す」
と、涼音さんが続ける。
「料理? というとあのロボットの? 」
「……そう、でも今回は少し違う。綾女さんに協力してもらう」
「私ですか? 」
と自分を指さし、綾女さんは尋ねる。
「……はい。綾女さんの料理をAIに学習させる。それを出す」
なるほど、それならば大きな話題になるだろう。
それと同時に花陽と万梨の二人が恥ずかしそうにしている理由も分かった。
自分の身内が大々的に取り上げられるとそうなるよね。
「綾女さん、いかがでしょうか? 」
縷々が尋ねる。
少し考えていた様子の綾女さんだったが、やがて
「私でよろしければ」
と引き受けてくれた。
「「ありがとうございます」」
と皆でそろってお礼を言う。
「それで、具体的には私は何をさせていただければよろしいのでしょうか? 」
「……このカメラで記録してもらう」
と綾女さんが鞄から小さめのビデオカメラを取り出す。
「……光堂寺さんに料理の様子をとってもらってそれを学習させる」
「記録されるというのは恥ずかしいですね」
綾女さんが照れたように言う。
「でも、今更ですがどうして私なんでしょうか? 」
「……料理、とても美味しかったから。みんな喜んでくれると思って」
綾女さんは、その言葉を受けて、
「評価をしていただきありがとうございます。がんばります」
と返す。
夕方から始まったパーティーも終わりが近づき、そういえば初めの挨拶をしていないことに気が付いた。
なら、今からでもしようということになって、部長の涼音さんが皆に押されるような形で前へと立った。
「……まずは、今日この場を設けてくれて、とてもおいしい料理まで作ってくれた綾女さんありがとうございます」
と、お礼を言う。
続けて、
「またみなさんのおかげでこの科学部が復活出来て本当にうれしい」
この2言だけの短い挨拶だったが、彼女の言葉からは本当に不安から抜け出せたという喜びが伝わってきた。
俺は彼女の日々に思いを寄せて、目頭が熱くなる。そして光堂寺家で行われた科学部復活パーティーは終わりを告げた。
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