部員探し。1
科学部を後にして光堂寺の別宅に帰っている途中、花陽が俺に向かって謝ってきた。
「ごめんなさい、央紀君。せっかく私のために部活を探してくれていたのに最後は勝手に決めてしまって」
「いや、いいよ。花陽がやりたいことをやるのが一番だしさ。それよりもずいぶんあの部活に興味があったんだね? それとも涼音さんを助けたかったから? 」
「もちろん、涼音さんを助けたかったからというのもありますが、自分の持てる力で未来を切り開いていくという可能性に挑戦してみたいと思ったんです」
「だから、今日あれだけ熱心だったんだね? 」
「そう、です」
そこで花陽は急に冷静になったのか顔を少し赤くして小さな声でそうつぶやいた。
かわいい。
「それで、涼音さんとは友達になれそう? 」
俺は本来の目的の方に話を戻す。
「ええ、目的が一緒の仲間だと思いますので、是非友達になれたらなとは」
と明るい返事をもらうことができた。
次の日。学校に着くと、教室の中は花陽と万梨が科学部に入ったという噂でもちきりだった。
花陽の周りにいる生徒もその話題を振ってくる。
「光堂寺さん、科学部に入ったって本当なの? 」
「ええ、今日入部届を出しに行こうかと」
「それに、綾女さんも入るんでしょ? 」
「ええ」
「あそこって確か涼音さんが入ってなかった? 」
「ということは学年のトップ3が一緒の部活ってこと? 」
「すごいねー」
という具合に盛り上がっている。
「それでみなさんに相談というか、お話があるんですが」
「何? 」
「実は今科学部では部員を募集していまして、兼部でも大丈夫ですのでよろしければ入部しませんか? 」
そう花陽が行った瞬間盛り上がっていたトーンが一気に落ち込む。
「えーっと、私は今の部活の方が忙しいし、ちょっと厳しいかな。ごめんね」
「私も部活が忙しくて」
「私も今は他のことが忙しくて、ごめんね」
と「入る」と言ってくれた人はいなかった。
まあ、興味があるのなら最初から入っているだろうし、いきなり言われても決められるものではないから仕方のないことだろう。
とその時は思っていた。
だが、俺の方でも何人かに声をかけてみたのだが、全員部員に光堂寺花陽や綾女万梨、それに涼音綾がいるとわかると辞退をしてきた。
もしかして何か避けられる原因があるのだろうか?
教室で見ている限りではそのような様子は見られないが、見えないところで何かあるのかもしれない。
俺は隣の生徒に話しかける。
「ねえ、涼音さんって有名人なの? 」
その生徒は声を落として答えてくれる。
「もちろんよ。小学校の頃から常に学年二位の成績を誇り、理系科目だけならあの光堂寺花陽をも抜くと言われている存在だもの。超有名人だよ」
「でも、その割にはあまり周りに人がいないような」
涼音さんが座っている席の周りには、休み時間だというのに誰も集まることなく、彼女はただ一人で座っていた。
「それは、やっぱり周りの人が遠慮してしまうからだと思うわ」
「遠慮? 」
「そう、自分なんかが涼音さんに近づけるはずはないという思い込みゆえの遠慮ね。今あなたたち科学部の部員を探しているけどあんまり成果がよくないでしょ」
「うん、まだ一人も集まっていない」
「そうでしょ、それも遠慮ね。しかも今回は学年の才女三人が同時に一つの部活に集まることになった。それも光堂寺さんと綾女さんは今まで度の部活にも属さなかった。そんな二人が選んだ部活だから余計に自分の力のなさを感じてしまう人が多いということね」
「そういうことか」
「そういうこと、だから私は転校生の君に注目しているのです。噂ではあの三人と同じ部活に入るみたいじゃないの。そんな勇気のある人間はなかなかいないからね」
「それにしてもよく知っているね」
特に俺が科学部に入るという部分、光堂寺花陽が科学部に入るという話のインパクトが強すぎて誰もそのことを気に留めなかったというかそもそも話題にすらのぼらなかったというのに。
俺が感心してそう言うと、
「だって、私は新聞部だもん」
と得意げに告げてきた。
新聞部は結局見学に行かなかったなと俺は思った。
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