部活見学。2
次の日の朝、久しぶりに運動した俺は、案の定筋肉痛となり、花陽に今日は一緒に行けないとの連絡を入れた。
自転車で光堂寺の別宅へとよらずにまっすぐに学校へと向かう。
教室につくと、俺の姿を見た花陽が心配そうに俺の席まで来てくれる。かわいい。
クラスの人も俺が花陽や万梨と話す光景にすっかり慣れたのか、特に尋ねてくることもなくなっていた。
「央紀君、筋肉痛は大丈夫ですか? 」
「まあ、何とか。それよりも今日見学するところは決めた? 」
「はい、まずは合唱部に行ってみようかと、どうでしょうか? 」
「うん、花陽が行ってみたいところで大丈夫だよ」
それにしても合唱部か、俺は不安を覚える。
実は俺音痴なんだよな。
その時俺は、教室の別の場所でひそかに気を重くしている少女がいることに気が付かなかった。
その日の授業も終わり、俺たち三人は音楽室へとやってきていた。
光堂寺花陽と綾女万梨が部活動をまわっているということは既に話が、まわっていたのか、合唱部の生徒は俺たちを見ると、
「今日はここに来てくれてありがとうね」
と、歓迎してくれる様子だった。
早速練習に混じって歌うことになったのだが、万梨は何故か、ピアノの伴奏を申し出て、不思議なことにその申し出はあっさりと通ってしまった。というより万梨がピアノを弾くということに安堵したようにも見えた。
そのやり取りを見ていた、花陽がふっと微笑んで俺に顔に近づいてくる。
いい匂いがして整いすぎた顔が近づいてきて、俺は恥ずかしさのあまり顔をそらしそうになるが何とか耐える。
そっと、花陽が耳元で囁いてくる。
「万梨は実は歌が下手なんですよ。だからピアノの担当なんです」
と告げてくる。
意外である。完璧である万梨にもそのような欠点があったのか。
俺は花陽の方を見ることなく話す。
「それってみんな知っているの? 」
「ふふっ、有名ですよ」
そうかだから、先ほど万梨がピアノを担当すると言った時、みんながほっとしたような表情を見せたんだなと納得した。
俺はさらに花陽へと尋ねる。
「どういう風に歌が下手なの? 」
同じ音痴同士としてどのようなタイプの音痴なのかというのは気になるポイントではある。
「それは」
と花陽が言いかけた時、万梨の演奏が始まってみんなが歌い始める。
俺も演奏に合わせて精いっぱい歌うのがなぜか隣で歌う花陽が心配そうにちらちらとこちらを見てくる。一体どうしたんだろうと、心の中ですっとぼけてみるが、はい分かっています。
俺の歌声ですよね。幸いなことに花陽以外は気付いている様子はなく、何事もなく演奏は進んでいく。
一曲終わった後、花陽が俺にまた話しかけてくる。
「もしかして央紀君も歌うの苦手だった」
「うん」
俺は正直に答える。
「ごめんね、無理やり付き合わせたみたいで」
花陽は申し訳なさそうにそう言ってくるが、
「いや、俺は自分の意思でついてきたから大丈夫」
そう話していると、俺たちの会話が聞こえていたのか。
周りの生徒から、
「やっぱり、少しずれた音が聞こえるなと思っていたんだよ」
「それ私も思っていた」
などの話し声が聞こえる。どうやら気付かれていないと思っていたのは俺だけだったようだった。
「でも練習すればうまくなりますよ」
と花陽がフォローを入れてくれるのが余計に空しく感じた。
その後、もう一度だけ歌った後、合唱部を後にした。歌わなくて済んだ万梨がほっとしていた。
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