最初は友達っていう話でした。2
つまりぼっちということか。
「それで自分ということですか? 」
「はい、幼いころに親しくされていた鳥飼さんなら花陽さまも心を開いてくれるかと」
「花陽さん本人は友達を欲しがっているんですか? 」
俺は重要なことを聞いた。本人が友達を欲しがっていないパターンも十分に考えられる。それを無理やり押し付けたってお互いしんどいだけであろう。
「直接口には出しませんが、態度で分かりますよ。それに私たちではダメなのです。年の離れているお嬢様と真の意味で友達になれるのは、年も立場も違う私ではなく鳥飼さんでなくてはいけないのです」
「分かりました、花陽さんとは長らく会っていませんがまずは会うだけということなら」
「ありがとうございます、きっと花陽さまも喜ばれると思います。なにせあなたと話している花陽さまの表情は本当に楽しそうでしたから」
そう言って今日一番の笑顔を俺に向けてきた。
その笑顔の威力といえば、窓の外にいた女子高生が歓声を上げ、中には慌てて写真を撮ろうとスマホを取り出した人もいたくらいである。というかあの女子高生たち、まだいたのかよ。
「では、早速花陽さまと会っていただきたいのですが、この後時間はよろしいですか? 」
今日は特に、というか今日も特に予定もないので大丈夫なはずだ。
「夕飯に間に合えば大丈夫ですが」
「そうですか、では行きましょうか」
そう言って店を出ると、あれお会計は? まさか無銭飲食?
それも顔に出ていたのか綾女さんは笑って、
「ここは光堂寺の系列なので、社員は社員証を見せれば連れ一人までは合わせて無料なんですよ」
俺はこの時、この人が本物の光堂寺製鋼の社員であることに確信を持った。だってそうでしょう。あんなに高いものを無料にできるなんて光堂寺の社員でないとできないでしょう。
俺は誰に言うわけでもない言葉を心の中で説得口調で繰り広げる。
「そこに車がとめてありますので、乗ってください」
そう言って、綾女さんが示す先にはいつの間にか黒塗りのいかにも高級車といった車が止まっていた。
俺は不思議に思った。光堂寺の家はここからならわざわざ車を使う距離でもない。
俺はドアに手をかけていいのかわからず、固まっていると、中から運転手と思しき男性が出てきてドアを開けてくれた。おおセレブっぽい。
俺が中に入るのと同時に綾女さんも中に入る。
「別邸にお願いします」
先ほどの俺の疑問はすぐに答えが出た。どうやらこの車は俺のよく知っている光堂寺の家ではなく別のところに行くのであろう。
それにしてもさすがは光堂寺である。あれだけ大きい家に加えて別邸まで持っているとは。
そこからしばらくは二人の間に会話はなく15分くらい車は走ったところで、目的地に着いたらしい。
綾女さんに促されて車を降りると、あたりは閑静な住宅街といった様子だった。
その中では特に大きいわけではないが、確かな存在感を放っているように見える家が光堂寺の別宅であった。表札には確かに光堂寺とある。綾女さんはチャイムを鳴らす。
「花陽さま、綾女です。 今日はお客様を連れてまいりました」
そう言うと、綾女さんはチャイムの下にある機械の隙間にICカードを入れた。
少し経つと門が開き、カードが返却されてきた。
「これができるのは、誰でもってわけではないんですよ」
綾女さんは少し得意げにそう言ってくれた。
俺は綾女さんの後に続く。玄関のドアの前でもう一度ノックをすると、そのまま開ける。
中は日本の伝統的なお屋敷みたいな感じであった。
綾女さんに従って靴を脱いで中に入り、二階に向かう。
綾女さんは、いくつかある部屋の一つの前で立ち止まるとノックをする。
「花陽さま、綾女です。 今日はお客様を連れてまいりました。 入ってもよろしいでしょうか? 」
先ほどと同じような言葉を述べる。
少しの間があいた。中から少し息の上がった声がする。
「どうぞ」
「失礼いたします」
綾女さんに続いて中に入ると、紅茶の香りとクッキーの香りがする。
部屋の中においてあるソファに座っていたのは、美少女だった。おそらく彼女が光堂寺花陽なのだろう。
なにしろ10年ぶりくらいなのであまり顔とかも覚えていないし、10年で成長しているために当時とは顔つきも変わっているから確信が持てないのである。
それでも、今日会ってからこれから先は、俺はこの子の顔を忘れないという自身があった。
それくらい彼女の容姿は整っていたのである。神様が彼女だけ特注で作ったような美しさであった。
俺が挨拶をするのも忘れて、彼女の方を見つめていると、その視線に気付いたのか、彼女は恥ずかしそうにその視線から逃れるように体をそらす。
そして手に持っていたティーカップを顔を隠すように近づける。その顔は少し朱が指しているように見えた。
かわいい。もうその感想しか出てこない。
そんな俺の思いが彼女に漏れてしまったのか、彼女は少しうつむく。彼女の長い髪が顔にかかりその表情を隠してしまう。
かわいい。
そのような沈黙があった後、
「央紀くんですか? 」
「はい、花陽さまと一緒に昔よく遊んでらした鳥飼央紀さんです」
俺の代わりに綾女さんが彼女の質問に答える。
俺は驚く。こちらは今の彼女を街で見かけても光堂寺花陽とは分からない自身がある。ただとんでもない美少女という印象が残るくらいだろう。
それとは違って、彼女は10年の月日がたっても俺のことを覚えていてくれたのである。
そのことがまず嬉しかった。
彼女はカップを置き、口を開く。
「それで何の用ですか? 」
「実は先ほど街で偶然、彼と出会いまして、話しているうちに花陽さまに会いたいというものですのでお連れした次第です」
なるほど、あくまで偶然ということにするわけだな、それに俺から会いたいと言ったという設定なわけだ。俺は話の流れを理解した。
「そ、そう。 央紀君が私に会いたいと」
彼女の視線が綾女さんから再び俺の方に向いたので俺は頷く。
「久しぶりですね、央紀君」
彼女が少し恥ずかしそうに俺の名前を口にして言う。
かわいい、とてもかわいい。
「は、はい」
俺は緊張して少し言葉に詰まってしまう。
「鳥飼さんは、昔のように花陽さまとお友達になりたいそうですよ」
綾女さんが本題に触れてくれる。
「そう、お友達に」
なぜか、彼女の表情が少し曇る。
「そうです、いかがですか? 花陽さま」
少し考えてい様子の彼女だが、やがて何かに気が付いたように、綾女さんの方を少しきつい表情で見つめると、
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