綾女万梨の欠点
週明けから新たに通うことになったSクラスで俺はこれまで以上に花陽と同じ空間で過ごすことができるようになったため友達作りのため注意深く観察をすることにした。
そうするとやはり聞いた話や自分の見てきた範囲での、結論の正しさがより証明される結果となった。
つまり、花陽に近づくにはまず万梨という壁があるということだ。そしてそれに花陽も慣れている。
具体的には、花陽に話しかける生徒がいればまず万梨が、
「何でしょうか? 」
と反応をする。
一緒にいないときは花陽がまず話すが、万梨が戻ってきたらそちらに対応を任せる時もある。
また、万梨に意見を求めることが非常に多い。
俺はその日の授業の合間の休み時間に万梨だけ教室の外に呼び出す。
いきなり編入してきてSクラスに入った俺は、少し注目の存在となっているようだった。
また、万梨は言うまでもなく、注目の存在である。
そんな俺が、そんな子を呼びだしたので何やら勘違いをしている人もいるようで、教室のドアからちらちらと覗いている人もいて、そういう話でもないのに緊張をしてしまう。
「何かありましたか? 」
「ああ、花陽の友達作りの話なんだけど」
そこまで俺が言うと、万梨はドアの方をちらほらと見ながら、
「すいません、ここでは何ですから、放課後でいいですか? 」
どうやら配慮が足りなかったようだった。それに今思ったが、花陽にも聞いてもらった方がいい話かもしれない。
授業が終わって、放課後。
いつものように光堂寺の別宅に三人で行き、俺は二人と綾女さんに向かって、この数日でより強くなった自分の考えについて話し始める。
「というわけで、友達作りのためには、万梨が少し花陽と距離をおく必要があると思うんです」
俺の言葉に最初に口を開いたのは万梨だった。
「それは難しい、私は学校での花陽さまの生活をサポートする役目がある」
「でも、万梨は花陽に仕えているわけではないんだろ? 」
「それはそうだが、綾女家の人間として光堂寺のサポートをするのは当然であって」
「確かにサポートは大事なのかもしれない。だが今はそのせいで他の生徒たちと花陽の間に壁ができていると思うんだ。いったん協力してくれないか? 」
「分かりました、確かに私も万梨に頼り過ぎだったのかもしれません。いったん央紀君の言葉に従ってみます」
考えている万梨に代わって、花陽が賛成の意を示してくれた。
こうなると、万梨としても賛成せざるを得ないだろう。
「花陽さんがそうおっしゃるというのなら私としても協力しましょう」
案の定万梨も賛成をしてくれた。
「私も賛成です」
それまで黙って話を聞いていてくれた綾女さんも賛成してくれた。
「鳥飼さん、花陽さまの友達作りのために意見を出していただきありがとうございます」
「いえ、そのためにレヴィンに入れてもらっていますから」
ですが、と綾女さんは続けて、
「学校の中では、花陽さまと万梨の距離を少し置くというのはいいですが、光堂寺の娘ということで危険もありますので、登下校はこれまで通り万梨をつかせます」
「それは大丈夫です、では早速明日から二人ともよろしく」
こうしてその次の日から俺の提案した作戦が始まった。
最初の方はクラスメートたちも少し距離を置いて過ごしている二人に対して、何かあったのかと尋ねる生徒たちもいたが、徐々に慣れてきて、二人に特に花陽の方にこれまでとは違い話しかける生徒が多くなったように思えた。男子生徒が多かったのは気にはなったが。
二人の方も最初は、花陽は話しかけられても今までは万梨が対応してくれていたからか、反応が遅れることもあったり、万梨の場合は花陽の方が気になるのか何度も振り返ったり、小声で何やらつぶやいていたが、2日も経つころには二人もこの環境に慣れて来たみたいだった。
ていうか俺ずっと、二人の方見てますね。
おかげで、何人かの生徒にやっぱり二人のこと気になるんでしょ、とか意味ありげな笑顔とともに言われることも増えてしまった。少し気をつけよう。
すっかり、当たり前となった放課後の光堂寺家にて、紅茶とお菓子をいただきながら、二人からこの数日の感想を聞く。
「私は今までより、たくさんの人と話すことができて楽しいです。でも万梨と話す機会が朝とこの時ぐらいしかなくなってしまったのは寂しいです」
「私は、花陽さんが安全な環境で過ごされていれば問題はないです。ですが、花陽さまに下心を持って近づく生徒たちが以前よりも増えたのは心配です」
万梨はやはり花陽の方をよく見ている。
俺は花陽に尋ねる。
「花陽、今日一日どこかに遊びに行こうなどと誘われた? 」
「いえ、誘われたりはなかったですね」
「行けませんよ花陽さん、男子と二人で遊びに行くなどと」
「大丈夫よ、万梨。私だってそのくらいの判断はできるわよ」
まあ、とにかく少し思うところはあるが、おおむね俺の作戦は成功したと言ってもいいだろう。
このまま親しい友人ができるといいのだが。
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