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綾女万梨

 レヴィンに編入する日の朝は、すっきりと晴れていた。

 

 今日はどうしても一緒に登校してほしいと言われたので、今、俺は光堂寺の別宅の玄関前で花陽が出てくるのを待っている。

 少しして、花陽が出てきた。

 「お待たせしました」

 「敬語」

 俺が軽い調子で言うと、(ここまで自然に言えるようになるために、昨日は鏡の前で何度も何度も練習した)花陽は、

 

「まだ、慣れないですね、慣れないね」

 と少し照れが入ったような声ではにかみながら言った。

 かわいい。

 

 「じゃあ、行こうか」

 俺はそう言うが、

 「ちょっと待ってください。今日は実は央紀君に紹介したい人が」

 

 俺は少し焦る。まさか男子生徒か? いやこれだけ美人なんだ。男の知り合いの一人や二人くらいいても不思議ではない。そう頭では分かっているがやはりショックは受ける。

 

 だがそれを悟られないように努めて平静を装って、花陽に聞く。

 「どんな人なの? 」

 

 その問いに尋ねようとした時、玄関のドアが開いた。綾女さんかなと思ったが、中から出てきたのは女の子だった。しかもこの子も花陽とはタイプは違うが美少女だった。明るめの黒髪を短く切ってある。

 この女の子が俺に紹介したい人なのだろう。俺は女子であったことにひとまず安心する。


 でもなぜ内側から出てきたのだろう。

 確かここに住んでいるのは綾女さんと花陽だけのはずである。

 俺の心の中の疑問に答えてくれ、エスパー綾女さんは今はいないので俺の疑問はそのまま残る。

 中から出てきた美少女が口を開く。

 「お待たせしました。花陽さま」

 

 「せめて様付けはやめてっていつも言ってるじゃないの」

 「ですが、やはりこういうことはきちんとしておかないと」

 はあ、とため息を漏らして花陽が続ける。

 「これは命令です」

 「分かりました。花陽さん」


 そこで、俺の存在に気が付いたのか、その女の子は、

 「ところでこの方は? 」

 「ほら、先日説明した、鳥飼央紀さんですよ」

 「ああ、この方が花陽さまのサポートをするという」

 どうやらこの女の子は事情を知っているらしい。

 「よろしくお願いします。ええっと」


 「万梨です。綾女万梨」

 花陽が紹介をしてくれた。

 

 「綾女万梨と申します。どうか花陽さんのサポートをよろしくお願いします」

 そう言うと俺に向かって一礼してきた。その姿勢は鮮やかで俺は思わず見入ってしまう。

 それにしても、綾女ということは。

 

「万梨は綾女の妹なのですよ。小さいころから二人で一緒に過ごしてきたの。央紀君と会った時はパーティには参加していなかったから覚えていないとは思うけど」

 そうか、やはり綾女さんの妹か。

 俺は改めて礼を言う。

 「お兄さんには大変お世話になりました」

 「いえ、兄がお役に立てたのならよかったです」

 「では三人そろったので行きましょうか」

 

 花陽のその一言で学校へと向かい始める。

 学校までは今日は歩いていくことになった。そのために少し早めに集合してある。大体ここからは徒歩20分ほどの距離である。

 「花陽はさ、綾女さんとは友達じゃないの? 」

 何気なく言ったその一言に、

 「花陽? 」

 と綾女さん(妹)が反応する。


 その声の低さに驚いて花陽の隣の綾女さん(妹)を思わず見る。

 「花陽さんに対して呼び捨てとは無礼ではないですか? 」

 俺の前に移動してきてそう抗議してくる。

 形のいい顔が目の間に近づくと恥ずかしさで目をそらしたくなってしまう。

 というか、少しそらしてしまった。

 

 「いいんですよ、万梨」

 「ですが」

 「いんですよ、だって私から言い出したことですから」

 花陽が助け舟を出してくれる。

 「花陽さんから? 」

 「ええ、そうです」

 「ならいいですけど」

 渋々と言った感じではあったが納得してくれたのか綾女さん(妹)は俺の前から離れてくれた。

 そして、

 

 「では私のことも万梨とお呼びください。花陽さんだけ呼び捨てというのはやはり納得できませんので」

 「え」

 そう反応したのは花陽だった。

 「まさかの万梨がライバル? いやまさか」

 その声は小さかったので俺は聞き取ることができなかった。

 

 「分かったよ、万梨さん」

 「さんも取ってください」

 ぴしゃりと万梨に言われてしまった。

 「はい、じゃあ、万梨」

 「それでいいのです」

 満足げに頷いて、

 「で、話していたのは何でしたかね」

 

 「いや、花陽と万梨って友達じゃないのかなと」

 確か以前、綾女さんが花陽に親しくしている友人がいるかと尋ねた時に、万梨の名前が出ていたような気がする。

 そう思って改めて尋ねてみると、

 「違います」

 

 言いよどむ花陽に対して明確に否定したのは万梨だった。

 

 「私は、花陽さんに仕えている家の者です。友達になれるといったような関係ではありません」

 確か綾女さんも同じようなことを言っていたような気がする。

 だが花陽も、

 「実際に仕えているのは万梨じゃないのだから、気にしなくていいのに」

 と反論するが、

 「いえ、そういうわけにはいきません、ですので代わりに私も花陽さんのサポートをこれまで以上にさせていただきますので。鳥飼さんもよろしくお願いしますね」

 どうやら議論は平行線のようだった。


今回も読んでいただきありがとうございます。よろしければ感想や評価、ブックマーク等よろしくお願いします。励みになります。

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