講義の成果! 綾女さんについていきます
学校に行って、その後光堂寺の別宅に行って綾女さんの講義を受ける。土日は、一日中綾女さんが教えてくれた。
花陽はあの日から俺の講義を担当することはなかった。
少し残念ではあるが、意識してしまって勉強に身が入らなくなるよりはましだと思うことにした。
そんな日々が数日間続き、いよいよ明日が試験という日になった。
「鳥飼さん、一週間お疲れ様でした。おそらく大丈夫だとは思いますが、だめだった際には私を恨んでください」
「いえ、そんな。綾女さんと後花陽に教わらなかったらここまで行けるかもと思える状態にすらなってないですよ。大丈夫です。必ず受かってきます」
それは俺の本心だった。ここまで面倒を見てくれた人をどうして恨むことができようか。
それに本当に行ける気がしているのだ。
「そのようにおっしゃっていただけると私も講義をしたかいがあったというものです。ぜひ受かっていただいて花陽さまを何卒よろしくお願いします」
そう言って綾女さんは頭を下げる。
「自分にどこまでできるか分からないですが期待に応えられるように頑張ります」
俺も綾女さんに合わせて頭を下げる。
「受かったら楽しみにしておいてくださいね」
綾女さんがくすっと微笑みながら言う。
「何をですか? 」
「それは秘密です」
いたずらっぽくそう告げる綾女さんは本当に楽しそうでいつものイメージと違い自分たちくらいの年の印象を受けた。
試験当日がやってきた。
昨日はやはり緊張のせいなのか夜中に何度か目が覚めてしまったが、睡眠時間事態は長くとったので思いのほかすっきりとしている。
俺はいつもより家を早めに出て自転車でレヴィン王立学園へと向かう。
方向こそ違えど、俺の今通っている学校とレヴィン王立学園では家からの距離はさほど変わらないので、これから通うことになっても家から通うことができるだろう。
俺は受付で要件を告げてから校内へと入る。
中は、いかにも伝統校といった感じの歴史を感じられる建物が並んでいた。
俺は案内の看板に従って、試験会場へと進む。
ちなみに今日は平日なので、レヴィンの生徒たちとも普通に出会う。
昨日も綾女さんから、今日送りましょうか? と尋ねられたが、目立つのは嫌なので遠慮させていただいたのだった。
でも、送ってもらわずに良かったと思う。意外というべきか何というか、車で登校してくる生徒は少なかった。(まあ、レヴィンは伝統校であってお金持ち御用達のいわゆるお金持ちのための学校ではないから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが)
そう言えば花陽はどうやって通っているのだろうか? やはり安全を考慮して車だろうか?
それとも他の大多数の生徒と同じように徒歩か自転車だろうか?
そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか試験会場についていた。
教室内では既に何人かの生徒が着席していた。
その中には俺と同じ2年の奴もいる。名前はたしか、島田とかいったかな。
そもそもボッチの俺なのだ。交友関係は広くない。
他にも学年が違うのだろう。名前は出てこないが俺の想像したよりも多くの生徒がいた。
一発逆転を夢見たのか、はたまた俺みたいに何か他の事情があるのかは分からないが。
席が空いていたのでもう少し来るかと思ったが、どうやら俺が最後だったらしい。
これからはもう少し早く行動しようと思いました。
監督の教師がやってきて、簡単な試験説明があった後、試験は始まった。
俺は一科目目の社会を開いて解き始める。
だが、試験が始まってすぐに違和感を覚える。
解けるのだ。それもすいすいと。
レヴィンの試験だからもっと難しいものだと思っていたのだが、これなら講義を受けた時に解いた問題の方がよっぽど歯ごたえがあった。
その時俺はあの勉強会で自分の学力が今までとは比較にならないほど上がっていることに気が付いた。
綾女さんの講義で学力があがっている実感はあったが、こうも結果につながるとやはり嬉しい。それにしてもわずか一週間でこれとは、驚きである。
綾女さんの教え方がコピーできるくらい、教わってきた花陽の学力を思うと少し恐ろしくなるくらいだった。
社会の試験が終わり、国語、外国語と順調に進んで行く。
昼休憩が終わり、数学が始まるころには次はどんな問題に出会えるのだろうというわくわくした気持ちが芽生えだしていた。
案の定というべきか、最後の理科まで特に苦しむこともなく(もちろん中にはどうしようもない問題もあったがそこまで拾う必要はないだろう。というか、そこはたった一週間の特訓なので勘弁してほしい)
そして試験が終わった。試験監督だった教師は、
「みなさんにレヴィンで会えることを楽しみにしています」
と、ありきたりなことを言って教室から出ていった。
特に教室に残る理由もない俺は、試験後の感想を言い合ったりしている生徒たちをしり目に教室を後にして自転車を置いた場所へと向かう。
レヴィンはまだ授業中なのか生徒たちに会うこともなく、俺は光堂寺の別宅へと向かった。
門の前でチャイムを鳴らすと、綾女さんが出てくれた。まあ、この家には花陽と二人暮らしみたいなので、花陽が学校に通っている今、家にいるのは綾女さんしかいないのは予想はしていたが。
門を開けてもらい中を進み、玄関のドアを開けると、綾女さんが目の前に立っていた。
俺に向かって一礼して尋ねる。
「聞くべきかは分かりませんが花陽さまも気になっていると思いますので、一応尋ねますね」
そう前置きしたうえで、
「試験はいかがでしたか? 」
俺は言葉よりも態度に先に出た。
右手を握り前に差し出し、親指だけ立てる。
俺のそのポーズの意図を正確に読み取ったのか、
「ひとまずはおめでとうございます、そしてお疲れ様でした。私の講義によくついてきていただきました」
「いえ、綾女さんの講義はとても楽しかったですよ」
俺は本心を口にする。
「そう言っていただけると、教えた側としての冥利に尽きるというものです。後よろしければ花陽さまにもその言葉を言っていただけると非常に喜ばれると思いますよ」
そう言ってふふっと微笑む。
「もちろんです、ただ上手く言えるかどうか」
「どうしてですか? 」
「いや、身内の方にこんなことを言うのもあれですが、花陽さんがかわいすぎてまともに顔を見て話せないんですよ」
綾女さんは、手に顎を当ててうーんと考える。というか、いちいち行動がさまになるな、この人。
「それは困りましたね。これから鳥飼さんがレヴィンに受かったら花陽さまと鳥飼さんの友達作りのためにお二人には一緒に行動をしてもらうことも増えることになりますのに。緊張して、上手くコミュニケーションが上手く取れないというのは、何かと都合が悪いですね」
「どうすればいいですかね? 」
「そうですね、慣れていただくしかないように思います」
「どうやっていけばいいでしょうか? 」
「そうですね、いっそ思い切って見つめられたらどうですか? そうすれば耐性もついていくと思いますよ」
「でも、花陽さん嫌がりませんかね? 」
綾女さんは、くすっと微笑み、だが言葉の後半は少し憂いを帯びながら、
「その点は大丈夫だと思いますよ、花陽さまは注目されることになれていますから」
と言った。
「信じていいんですね? 」
花陽にずっと付き添っているであろう綾女さんの言葉を俺は信じることにした。
「はい」
そう言えば、いつから綾女さんは花陽に仕えているのだろう?
そのことを尋ねてもいいのかとも思ったが、やはり気になるので、尋ねてみた。
そうすると、
「正式には10年になりますかね、何せこういう家ですから正確なところが曖昧になるんですよ」
との答えだった。
10年といえば、俺と花陽がまだ会っていたころの話である。だから、先日声をかけられた時から綾女さんは俺の名前を知っていたのかと納得した。
「よろしければ少しあがっていきませんか? お茶も淹れますし」
その誘いに乗って俺は少しお邪魔することにした。
相変わらず、美味しい紅茶を堪能していると、玄関のドアが閉まる音がした。
どうやら花陽が帰ってきたらしい。
「花陽さんって、自分で通っているんですね? 」
「ええ、あっちの監視はついていますがお一人で自転車で通われていますね」
俺の口にした疑問に、次に聞いたであろう質問に対する答えまで先を読まれて答えられてしまった。エスパーかな?
あっちというのはどういうことなのか聞こうとしたその時、花陽がキッチンのある今俺たちがいる部屋へと入ってきた。
「綾女、外に央紀君が乗っている自転車が置いてありましたが? 」
そう言いながら部屋に入ってきた花陽は俺の姿を見つけると、
「お、央紀君? 」
と少し驚いた様子だった。
俺は花陽の顔をあまり見ることなく挨拶をする。
そこで俺は先ほどの綾女さんの会話を思い出してこれではダメだったと反省する。
都合のいいことに、彼女は俺の向かい側に座ってくれた。
綾女さんが紅茶を二人分用意して花陽の隣へと座る。
俺はチャンスとばかりに、紅茶を飲む花陽の顔をできるだけ見つめようとする。
俺の視線に気が付いたのか花陽は持っていた紅茶から手を離すと、また髪で顔を隠してしまった。その顔は紅茶の暖かさと今日の気温の高さからか少し赤いようにも思える。
そんなことより、少し見つめすぎてしまったようです。このままだと、また中学の時のようになってしまう。
そう感じた俺は、綾女さんに視線だけで助けを求める。
「そう言えば、鳥飼さんから花陽さまに対して申し上げたいことがあるそうですよ」
俺のSOSを正しく受け取ったのか。綾女さんはウインクをして助け舟を出してくれた。
俺は先ほどの綾女さんとの会話を思い出して、
「今日の試験は花陽さまの講義のおかげで何とか乗り越えることができそうです。ありがとうございます」
俺のその言葉が正解だったのかはわからないが、綾女さんが頷いていたので少なくとも間違いではなかったと思いたい。
だが、花陽は顔を隠したまま、
「そう、それはよかったわ」
とだけ言うと、紅茶を飲んで席を立ってしまった。
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