女教師って憧れるけど特に何か起こるわけではない
「さて、休憩はこのくらいにして講義の方に戻りましょうか」
綾女さんのその一言で講義は再開した。
だが先ほどまでと違う点が一つ。
食器を片づけに行った花陽がなぜか再びこの部屋に戻ってきたのだった。
「花陽さま。どうされましたか? 」
綾女さんが、尋ねる。
「私が教えるわ」
「はい? 」
「だから私が央紀君に勉強を教えるわ」
「そうですか。いかがでしょうか? 鳥飼さん」
正直、綾女さんの講義はとても楽しいので、合格を考える上でも綾女さんのままがいい。
だが、何故か彼女はやる気のように見える。ここで断ってその厚意を無下にするのもどうかと思う。
俺がどう答えるべきか悩んでいると、
ぱん、と軽く両手を叩く音がした。
「そう言えば私はこれから夕食の準備がありました。すいませんが鳥飼さん、花陽さまにバトンタッチさせていただきますね」
「他に人はいないんですか? 」
俺は以前疑問に思ったことを口にする。
「ええ、ここには花陽さまと私だけです。食事は交代で作ることになっていて、今日は私の番だったんですよ。ね、花陽さま? 」
「え、ええそうね。綾女ありがとう」
そうか、二人暮らしなのか。ご両親とは別で暮らしているんだな・。
「いえ、では花陽さま後はお願いしますね」
綾女さんはそう言うと、部屋を出ていった。
花陽は綾女さんが座っていた位置に移動する。
俺は前が上手く見れなくなるがちらちらと花陽の様子を伺う。
花陽は綾女さんが、残していったプリントを一枚ずつ確認すると、髪を後ろにまとめてくくり始めた。
「じゃあ再開しましょうか」
花陽のその一言で始まった今日の第二部は、それは見事なものだった。あまり花陽の方を意識することもないくらいに集中もできた。
彼女の教え方は、綾女さんの教え方にそっくりだった。彼女自身も綾女さんに勉強を教わってきたんだなと感じた。まあ、あの綾女さんにずっと教わってきたならレヴィンにくらい入るのなんて簡単だったんだろうと思った。
そんなことも思いつつ講義は進んでいき、特に何も起こることはなく、あっという間に昨日この家を出た時間帯になった。
「今日はこのくらいでしょう。復習を忘れないでくださいね」
昨日もそうだったが、勉強をしたという充実感がすごい。俺はまた明日来る約束をして、別宅を後にした。
家では綾女さんがポイントをまとめてくれたノートを使って復習に励んだ。これもすごいできであり、俺が分からないと感じたポイントの解説がまるでエスパーかのように手厚いものだったのだ。もしかしてこのノート昨日今日で作られたものだったりして。
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