1 雪ノ降ル夜
完全趣味で書き始めました。
ー15歳の冬、わたしは雪の降る夜に家を飛び出した
靴も履かず薄手のワンピース1枚の姿は雪の降る夜とは似つかわしいだろう
けれど、寒さなんて感じなかった
ただひたすらに痛くて怖くて何も見えなくて気づいたら立っていられなくなっていた
(一体何が起きたの?)
思い出せない、思い出したくもない
ただ残るのは体の感触
震えが止まらなかった
それはきっと寒さなんかじゃなくて恐怖からだ
(お母さんじゃなくてアイツが死ねばよかったのに)
もともと体が弱かった母親はわたしの7歳の誕生日に亡くなった
母親が亡くなるまでは至って普通の仲の良い家族だった
しかし、母親が亡くなって日に日にストレスが溜まっていった父親は酒に溺れ女に溺れいつしかわたし手をあげるようになった
小学校4年生の頃からか、父親のDVから受けた傷やボロボロの服などからいじめが始まった
家にも学校にもわたしの居場所は無くなっていった
母親が生きている頃、よく聞いていた話があった
「花羽って名前はね、お母さんがつけたの。蝶々は大きな羽で美味しい蜜を吸うために魅力的な花を見つけに、自由に空を羽ばたくの。だから花羽も素敵なお友達を見つけるのよ。そしていつか大好きって思える人と幸せになってね。」
母親は蝶々がとても好きだった
母親の形見は蝶々がモチーフのステンドグラスのペンダントだった
「…わたしも蝶々になりたかったなあ」
月光にペンダントを透かして自然と口から漏れていた
「そこのお嬢さん。そんな格好でいたら寒いでしょう?」
背の高い男の人が目の前にいた
わたしはしばらく何も言えずにその人の瞳に訴えた
もしこのまま居たら死ぬってわかってた、だけど家に帰ったらアイツがいる
またアイツと暮らすくらいなら死んだ方がいいと思っていた
もしかしたらこの人がわたしがさがすお花なのかもしれない、何故かそう思った
「…たすけて。」
わたしはその人の服の裾を掴んで精一杯の声で言った
蝶々になりたかったから
涙が邪魔してその人の顔はもう見えなくなっていた
「太翔、この子1回うちで預かろうか。」
「え?何言ってんですか。誰かもわからない女なんていつもならほっといてるじゃないですか...って誰に電話を?レイさん呼ぶんすか?」
「ご名答。...あ、もしもしレイ?可愛い子猫を拾ったんだけど傷だらけで。ウチまで来てくんない?」
『は?いきなり電話かけてきたと思ったら猫??...まあ貸しって事ならいいけど、その代わりお返しは倍でよろしくね。』
「はは、レイなら来てくれると思ったよ。 じゃあよろしく。...太翔、車こっちに付けるよう言っといて。」
「誓さん本気ですか...。はあ、全く。なんかあっても知んないですからね。」
何が起こっているのかわからなかった
誓、という名の男の人が自分が着ていたコートをわたしに着させて言った
「よく頑張ったね。もう大丈夫。」
気付いたら涙がこぼれていた
何も事情を話していないのにこんなにも温かい言葉をかけてくれた人は母親しかいなかった
コートから香る金木犀の香りは母親がいつも付けていた香水の香りを思い出させた