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俺らの考えた最高に充実してる毎日

作者: ササップ

「あぁ、朝か」

 何気ない朝、なんら変わらないいつもの朝、頭の中はすっきりとしていて、眠気は一切感じない。すがすがしいいつもの朝。


 洗面所で手早く顔を洗い、食卓の上に置いてあるこんがりと焼けたトーストと、温かいスープに口をつける。10分ほどで朝食を終え、毎日健康を考えて変わる献立に、心地よい満腹感を得る。


 少しの間リビングでのんびりしながら消化を待つ。どうであっても影響はないが、暇つぶしついでにテレビの天気予報を確認する。今日は火曜日、天気は晴れ、気温は19度。当然のように過ごしやすい1日だ。


 30分くらいニュースを眺めた後、スケジュールに従いトレーニングルームへおもむく。今日の練習メニューは15分のランニング、デッドリフト、スクワット、ベンチプレス。このメニューは3日に1度ほどの頻度で出てくるから慣れたものだ、少し頻度が高い気もするが、昔の人はBIG3と呼んだくらいには健康面で効率がいいのだから仕方ないだろう。


 全身に負荷がかかっているのを感じながらそれぞれ3セットずつ、合計で1時間半程度のトレーニングを終え、用意された栄養剤を摂取したのち、シャワールームで軽く汗を流す。

 着替えを済ませリビングで息が整うのを待ってから、コンピューターのスクリーンを見つめる。1日1時間の学習時間は20歳まで続くというから、あと3年もこの時間が毎日あるというのは結構気が重い。正直学習をすればするほどなぜ今学習しているのかが分からなくなる。今更学んだところで何になるというのか。

 そんなことを思いながら学習時間を終え、昼食のため食卓につく。今日は珍しく麺類、うどんが用意されていた。長すぎずしっかりとしたコシのある麺をちゅるちゅると咀嚼する。次の予定まで時間に余裕があるのだからゆっくり味わって頂く。


 20分ほどでうどんを食べ終え、軽く歯を磨いたら、次はコミュニティスペースへ他の人との交流を行う。今日は特に話さなくてはならない人もいないので適当に目に付いた人と喋ることにする。



「あらぁ太平くん。今年でいくつだっけぇ?もう、立派になっちゃってぇ」

最初に目に付いたのは篠田さん。俺より年は20位離れているが、交流の時間がよく被るため話すことが多い。


「今年で17歳です。篠田さんも元気そうで何よりです。」

「あらまぁ!後3年で結婚じゃない!お相手はもう決まってたりするの?」

「いえ、まだ。多分2か月後とかには確定すると思うんですけど。僕としてはこのまま独身の方が過ごしやすいとか思っちゃいますね。」

「そんなこと言っちゃってぇ、他の人と一緒に暮らすのも楽しいものよ!」


 他愛もない世間話、正直「20歳になったら」という話は篠田さんと会えば4回に一度はしている気がする。結婚についても正直何度目なのかとうんざりしてしまう。だが話すことがないのも事実なので適当に返答する。


「まぁ、幸せな事には違いありませんし、どっしり構えてることにします。」

「それもそうだねぇ、相手さんわかったらおしえてねぇ」


 キリのいいところで話を切り上げ、他に話せそうな人を探す。篠田さんと話すのが不快なわけではないが、何となく体力を持っていかれる感覚がある。そう思い周りを見渡すと、同い年の宮原が暇そうにたたずんでいるのが見えた。


「あ、宮原」

「お、太平!」

「元気か?」

「ん?元気じゃないように見えるか?」

「いや、そういうつもりで聞いたわけじゃない。」


 宮原はいつものようにこれでもかという位の笑顔を向けながら返答してくる。見慣れた光景だ。いつも幸せそのものを体現している、そんな奴だ、宮原は。


「安心しろ!俺も毎日幸せで健康だ!」

「そうか、いいことだな」

「おう!」


 本当に、いつも元気な奴だ。こいつだけ他のやつらより多いトレーニングメニューでも提示されてるのではなかろうか。


「そういや、2週間後には17歳だな!」

「あー、そういやもうそんな時期か」

「何がどう変わるんだろうな!17歳になると!」

「たぶんなんも変わらないぞ」


 この会話は去年もした記憶がある、16歳になったら何が変わるんだろうかと宮原が聞いてきて、何も変わらないと俺が答えた。宮原は本当に毎日楽しそうに毎日を過ごしているな。


 「おっと、俺はそろそろで交流時間終了だから帰るわ。またな」

 「おう!またなー!」


 宮原に別れを告げリビングに戻る。リビングはパーソナルスペース故自分以外はいない安心感がある。当然監視カメラもマイクも配置されてない。ノンストレス化の一貫らしく俺自身も最近はリラックスできる時間は増えた気がする。


 「ふぅ、疲れた。今日の残りの予定は晩飯と風呂と睡眠以外は自由だったかな。」


 もう午後の5時だ、暗い中を歩くのは教育に悪いとかで許されていないのだからできることは少ないが。


 俺は部屋の備品である携帯ゲーム機を取り出し晩飯の時間までのんびりすることに決めた。運動も勉強も午前中で終了しているのだから仕方がない。出歩けないとなれば後はリビングで怠惰に過ごすしかあるまい。



 30分くらいだろうか、ソファーでゲーム機をピコピコさせていると、俺のパソコンからショートメールの通知音が聞こえた。それも2件も連続で。


「ん?この時間に通知って誰だろ。」


 普段はその日の生活メニューが送られてくるだけのショートメールが珍しいと思いながらメッセージを確認する。一つは生活管理機構からの明日の日付で昼の他者のパーソナルスペースへの訪問許可、もう一つは確か8つ年上の相模さんから明日昼遊ばないかという誘いだ。相模さんは普段から自由時間に小物を作ったり絵を描いたりしてて、退屈になると他の人を誘って遊ぶ珍しい人だ。俺もよく誘われているが、相模さんの話は学習の時間よりもよく考えさせてくれるので、ものの見方や価値観が正しい方向へ導かれている気がする。

 どちらかと言えば話していて心地いい相手なので、少し心の中で明日が楽しみになる。


 「どんな話をしてくれるんだろ。遊ぶって誘いかたも相模さんらしいや。」


 想像に胸を膨らませていると6時になった。夕飯の時間だ。

 今日の夕飯は生姜焼きとカルパッチョだ、カルパッチョはサラダとして出されているようで、玉ねぎと二十日大根の割合が多い。味噌汁と白米も当然ある。30分ほど食事を楽しむ。生姜焼きのおかげで体が暖まってきている。今日はよく寝れそうだ。


 食事を終えて届いているであろうショートメールを確認する。明日の生活メニューが載っている。いつもと違うのは訪問許可が出ている時間帯は括弧書きなところだろうか。


 30分ほどソファーに座りながらガラス越しの星空を眺めてから風呂に入る。食後すぐに入ると止められるのが面倒で仕方がない。


 さっと汗を流して湯船に5分ぐらい浸かりバスタオルで身体を拭いてリビングに戻る。

 軽く歯を磨いて寝る支度を済ませ寝室に向かう。ベットはいつも通り完璧に整えられていて、ふっくらとしていてほんのり柔軟剤の香りがする。眠気に駆られるままベットで横になる。



 明日はいつもと違う用事があるからだろうか、少し寝付けないと感じた俺は、物思いにふけることにする。


 「相模さんが教えてくれるまで、なんで俺は何も思わなかったんだろう。どうして今の生活が幸せそのものなのだと思っていたんだろう。相模さんは創作活動をすることを幸せに感じるって言ってたけど、俺は何を幸せに感じているんだろうか。というか、俺には何ができるんだろうか、小物を作れるほど器用でもない、絵を描けるほどの技術も知識もない、自分を磨くこともない、そんな生活でメニュー通りに過ごしていた俺がなぜ幸せと確信していたんだろうか。」


 相模さんに会ってから考えてきたことを口にしてもう一度考えてみることにした。けど疲れが出てきたのか途中で寝てしまった。明日も7時に起きなくては。

 俺の意識はそこで深いところまで落ち、途切れた。

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