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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺は今日もチャラい兄が嫌い……ではないかもしれない

作者: neco

よろしくお願いします


日比谷 忍(高校1年生)の場合


俺には、兄がいる。


「しの、今日も可愛いね」

金髪にピアスのこの男がまた甘い言葉を恥ずかし気もなく言う。

外見も中身もチャラい、その1言につきる。

……この男が、俺の兄。


「だから、その癖止めろって」

顔を顰め、兄に向かって言う。

兄は、大学生2年生だ。

昔からポジティブで底ぬけに明るい奴だと思っていたが、大学生になってヒートアップした。

髪を金色に染め、ピアスも開けた。

そして何より、誰にでも甘い言葉をはくのだ。

男女問わずで、もはや癖になっていると言ってもいい。


「癖じゃないよ。しのは、本当に可愛い」


「男の俺にそんな事いわれても、嫌味にしか感じない」

俺は女顔だ。

自分で言っていて悲しくなる。

可愛い系男子と称される部類らしい。

BLの方かと勘違いされることも多々ある。

いきなり壁ドンとか…

と、とにかく、女みたいだと言われるのは正直いい気分にはならない。


「そうかなー?可愛い弟って最高じゃん」

邪気のない笑顔でにっと笑う。

今時、こんなこと言う奴いるか。


真っ直ぐな言葉を使うため、人に好かれやすい。

平気で人の地雷を踏んだり、傷つけてしまう言葉も言うけれど、結局の所、皆憎めないのだろう。

……そして俺も。


「バカ兄だな、本当」


照れて俯く俺に兄は気付いているのだろうか。

癪だから、気付いていないといい。


「なんだよー、バカ兄って。酷くない?昔は、お兄ちゃんお兄ちゃんって言ってたのにさ」


バカ兄に拗ねたのか、昔のことを持ちだす。

お兄ちゃんとは言ったことはあるけど、小さい頃だし今とは関係ないだろ。


「昔のことを持ちだすのはやめろよ」


朝ごはんのパンをちぎり口に入れて、むすっとした顔をする。

そんな俺を見て、ぷっと笑い声が聞こえたので、睨んでおく。

兄は、もう朝ごはんを食べ終わっているみたいで、スマホを弄っている。

忙しなく指を動かしながら、俺と話しているという。

なんとも器用なことだ。


「えーってか、もう時間じゃん。お兄ちゃん、もう行くわ」


そう言って立ち上がり、俺の頭をわしゃわしゃ撫でていく。

その手を振り払い、上をきっと睨むと兄はにっと笑う。


「さっさと行けば」


「行くいく。でも、しのとずっと一緒にいたいよぉ」


いつものことだけど、きっと本気ではない。

兄は、俺といるより自分の友達といる方が楽しそうだからな。

俺は、兄の言葉ほど軽く信じられないものは無いと思っている。

そして何より、兄は……


「うざいから行け」


いつものように俺もあしらう。

はいはーいと笑いながら、バックを肩に掛けて出掛けていく。


「俺もそろそろ行くか」


ご馳走様でしたと誰もいないが言って皿とコップを片付ける。


「……行ってきます」


ドアの鍵をかけ、家を出て学校へ向かう。

俺と兄の2人暮らしで両親がいないからな。

両親は、去年亡くなった。

親戚に引き取られることになったが、所詮俺は厄介者でしかないみたいで決めあぐねていたところを、兄のように慕っていたはとこが名乗り出てくれたのだ。


そのはとこを兄として幼い頃から見ていたから、兄として今も接しているわけだ。


今の生活資金は、兄の家族が出してくれている。

兄がどう説得したのかは、不明だが、今の生活ができていることに感謝しているのは、事実だ。


外に出たしのは、家を見てはぁと小さく溜め息をつく。


兄と僕の為だけに建てた家だそうだ。

食費などの生活費は働いて、地道に返そうと思っている。

返さなくていいと言ってくれているけれど、厚意に甘えたくない。ただ、僕が返したいだけだ。


「大学生になったらこの家を出ていこう。」


学費免除になる特待生を目指すつもりだ。

バイトの出来る大学に通いながら、生活費を稼ぐ。

そして、安いアパートの一人暮らし。


これが思い描いている自分の将来だ。


◇◇◇


日比谷 理央(大学2年生)の場合


「リオ、おっはよ〜!」


そう言って挨拶するのは、ヤンキーのような見た目の男。

赤い髪をオールバックにした頭でにいっと笑うと八重歯がのぞく年上に受けそうな小悪魔かつ可愛い系。


「……はよ」


理央、通称リオは、不機嫌だった。

金髪ピアスのチャラい見た目と同じで、明るくてノリがいい。

ただ、女遊びが全然ないことから、年上のエロい彼女がいるのではという噂がある。

本人は興味がないので、否定も肯定もしていない。


「なんだよ〜、今日ノリ悪いじゃんか。」


「しのが家出ていくとかいうから……。」


朝、学校へ向かうしのが呟いた言葉。

家を出ていくってやっぱりそういう事だよな。

俺のこと、嫌いになっちゃったのかな。


酷くしょんぼりしているリオ。


「しの?リオ、彼女に振られたのかー。」


リオの様子で察したとでもいうように、ウンウンと頷く。


「はぁ?違うし。」


「あー、納得出来ないよな…。でも、出て行くっていったら、嫌いになったって事じゃん。」


「嫌いになった……。やっぱり。」


余りにも正直な言葉に心が痛む。

嫌いという言葉が頭から離れない。


「いや、まだそうと決まった訳じゃないだろ?直接、聞いてみないと!」


リオのガチへこみ具合に焦り、フォローを入れる。


「……そうだな。」


「そう、そう。元気だせって!」


背中を思いっきりバーンと叩かれる。

いたいって。この馬鹿力……。


この男は、いつもポジティブで少し羨ましい。

無神経なのが、厄介だけど。


「ところでさあ、パーと合コン行かない?気分転換になるかもよ?」


肩に腕を回し、にいっと笑う。

こいつは……

腕で脇腹をどつく。


「ひと言余計なんだよ。このバカ。」


慰めてくれたのは、まぁいいとして、合コンの誘いを今するか。


「バカってなんだよ~酷いじゃん。あっ、何聞いてんの?」


リオのはめていたイヤホンをひったくる。


「あっ、おい!」


ダメだ。

だってそれは……


「返せよ!」


つい声を張り上げてしまうリオ。

それに驚き動きを止める。


「な、なんだよ。マジになんなよな」


「はあー」

危なかった。

俺が聞いてるのは、音楽ではない。

しのの声だ。

盗聴器をバレないように仕掛けている。


「なんとかしないとな…」


しのが家を出てくなんて、許さない。

絶対に。

あの日、俺を裏切ったことをまだ忘れていない。

忘れてはいけない。

復讐を遂げるそのときまで、ずっとそばにいてもらわないと。

そのためだけに今日も愛情を注ぎ続ける。



「好きだよ、しの。…誰よりも」





ありがとうございました

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