精樹大国オールドウッズ02
新作コンセプト画像の露店風呂のエピソードがようやく公開出来ました。2つ前の話に添付しております。よろしければご覧くださいなぁ
そもそも『木が歩く』を想像したことはなかったが、それでもイメージとしてはもう少しもっさりとした動きだと思っていた。ところが実際はその巨大さや重さを苦にせず、普通に人間ぽい歩き方をしている。
「ではコテージへと案内します。皆様、こちらへ」
「なんで人嫌いなのに、コテージとかあるの⁉︎ つか、コテージって完全に人が滞在するための施設だよね。ミトさんの事前情報とはだいぶ違うんだけど」
「私が以前に来た時は、そんなものはなかったんだけどねぇ〜」
「ミトさんにも知らない事があるんですねぇ」
「ここに来るのは久しぶりなんだよ」
「久しぶりってどうせ100年前とか500年前とか、とんでもない昔なんでしょ⁉︎」
「いや、9年くらい前かね〜」
「意外‼︎ 割と最近だよ‼︎ ミトさんにしては珍しく直近だよ‼︎」
人型になったプラタナスCとDが器用に両手両足を動かして移動している姿が、だんだんと笑えてきた。ただ動きのコミカルさに反して、時々後ろを振り返り俺たちの歩くスピードを注視しながら自らの歩行スピードを調整している。その細やかな配慮が、とても人間を毛嫌いして拒絶していたようには思えないのだ。まぁ〜先代精霊王のミトさんだけに対しての心配りというのであればわかるが、どうにも人間を差別しているようにも見えない。アギトは後をついて行きながら、この不思議な違和感の正体を探していた。
それは単純に俺たちに応対してくれたプラタナスたちの立ち振る舞いだけでなく、このオールドウッズの大深林全体が醸し出す雰囲気そのものに、殺気ではなく安心感を感じていた。なぜ、そんな風に思えるのか!?それは案内に沿って次第に整備の整った森の中を進んでいく中で、疑惑からもう少しで確信に変わりそうな……答えに手が届きそうなそんな気がしていた。
「あのさぁ〜ここの森の雰囲気というか、森全体の空気感が、ミストラルの森と言われても違和感ないんだけど⁉︎ だいぶというか、結構似ていると思うんだけど。これ気のせいかなぁ⁉︎」
「あっ‼︎ 俺もそう思った。以前、ミトさんに連れてってもらったミストラル敷地内の立入禁止区画のあの大きな森にも似ているよなぁ〜」
「そうそう、雰囲気が似ているわよね」
「だってさ、ここに入る前に霧で覆われているのもミストラルと一緒だもんね」
「なんか、ちょいちょい模倣っているね」
初めての他国であり、初めての場所なのに、みんなは揃いも揃って同じ感想を口に出し始めた。ここまで似たような意見が出ると、これはもう疑いようがない。決して偶然ではなく明らかにオールドウッズとミストラルには、何かしらの因果関係があると考えていいかもしれない。みんなが同じような印象を抱いている事で、アギトにはある仮説が構築された。
しばらく進むと、本当に目の前にコテージが見えてきた。それも一つではない。ここらをざっくり見渡しただけでもざっと10軒以上はある。
「うはぁ〜」
「ココどこの避暑地だよ⁉︎ ココ軽井沢かよ⁉︎ なんで、そこら中に建っているんだよ⁉︎ つか、普段誰がココを利用するんだよ⁉︎」
スバルがみんなの思っていることを代弁するかのように、ツッコミを入れた。
「私たちですけど」
「私たちですけど」
平然とした口調で、プラタナスたちがハモる。
「嘘つけや‼︎ あんたらは見た目3m以上もあるじゃないか‼︎ その大きさでどうやって利用するんだよ⁉︎ そもそもコテージの中に入る玄関のドアは、普通の人間の高さしかないよ。2mくらいのドアの高さだよ。それよりも圧倒的にデカイあんたらがどうやったら中に入れるんだよ⁉︎」
「こうやって入ります」
そう言うとプラタナスはドアではなく専用の窓を開け、そこから枝だけを中に入れた。
「入りました」
「入ってね〜よ‼︎ それ単に枝を家の中に伸ばしただけだろ〜が‼︎ 本体まるまる外じゃね〜か‼︎ むしろ遠目から見るとコテージが絵的に様になるように配置された『シンボルツリー』扱いじゃね〜か‼︎」
「これでも十分コテージを、堪能出来ますけど」
「出来てね〜よ‼︎ どういう理屈だよ‼︎ つか、なんでコテージ作った⁉︎ 誰の差し金だよ⁉︎」
スバルのツッコミは、止まる事をしらないが、至極当たり前の反応ではあった。
「確かに人が嫌いで人との関係を絶っているのに、なんでこんな人間サイズのコテージがこんなにも多く点在しているんだろう⁉︎ 仮に精樹族が利用するなら、もう一回り大きいサイズのコテージを建築するんじゃないの!?」
「そんなことは、今はどうでもいいじゃない。とにかくみんなは体力的にも精神的にもヘトヘトなのよ。ちゃんと休めるところがあるだけ幸せだと思いなさいよ」
ケイはオサムの疑問をスルーしつつ、無警戒でドアを開けてコテージの中へ入って行った。こういうケイの体当たり感というか、怖い者知らずは出会った頃から変わっていない。ケイの行動に唖然としつつも、その流れに付き合うように、みんなも同じコテージに入ることにした。
「おいおい家の中は、思った以上に広いしちゃんとしてるぞ。完全に人が暮らせる設備が整っているぞ‼︎」
「椅子とか机とか、ベッドとか、トイレまであるじゃん。大きさも人用だし。……なんだココ⁉︎ 本当に、オールドウッズには人間がいないのか⁉︎ 人間が嫌いなのか⁉︎」
「おふとんがふかふかでしゅ」
モモちゃんがベッドの上にある布団に顔をすり寄せて喜んでる。
「めちゃ、快適なコテージ だぞ‼︎」
「これも偏に皆様に喜んでもらう為の『人でなし』の精神でございます」
窓の外から、プラタナスの声が聞こえた。
「それを言うなら『お・も・て・な・し』な‼︎ つか、我ながらよくその誤爆に対し、答え合わせのツッコミが出来たものだと自画自賛するわ‼︎ そして『人でなし』と『おもてなし』では意味がまるで逆だからな‼︎ 史上最大の誤爆だからな‼︎」
「失礼しました。まだ人間の言語を100%理解してないものですので、ご了承ください」
「いや、120%理解しているからこその皮肉かと思ったぞ‼︎ ついに本性を現したかと思ったぞ‼︎」
「大変失礼しました。お食事はもう少し後でお持ちいたします。その間、お風呂で疲れた体を温めてお寛ぎくださいませ。ここの風呂は特にこだわっておりまして、わびさびある竹林を一望出来る檜造りの露店風呂でございます」
「お前は、高級旅館の女将か‼︎」
「いえ、プラタナスCです」
「いえ、プラタナスDです」
「そのハモリは、もういいよ‼︎」




