アギトの憂鬱06
カノンさんと別れ3人の掃除を手伝った後、魔なび舎の宿舎に戻りベットで寝転がりながら、アギトは一人考えていた。
実はトウタさんの混血魔法【ミリオンブラッド】を見た後から、模索していた部分があった。それはラストリンカーの魔法のパワーバランスについてである。今、俺の手持ちの魔法は記憶魔法【レコード】、記憶復元魔法【リメモリー】、罠魔法【ボトムトラップ】の3つ。タイプでいえば遠距離タイプに該当する。
個人戦は置いといて、PTを考えたときに、接近タイプ【インファイター】が誰一人もいないことが懸念材料だった。いわゆるパワータイプの魔法使いである。ただ前世において誰も格闘技をやったことがなく年齢も子供が多い集まりの中が、接近戦を求む方が酷な話である。こればっかりはセンスの問題もあるが本質的には、魔法の問題ではなく格闘経験の問題だと思っている。
前回の野盗戦はデュフェンス重視、つまり防衛戦だったので、パワー系のインファイターがいなくてもよかった。しかし、今後様々な戦況が予想される場合において、せめて一人くらいはパワータイプが欲しい。
可能性としてはトモミにやってもらいたい気もするが、彼はインサイドガード……うちらの守備の要なのだ。性格的にも大人しく未指数な相手にカラ元気で自分を強く見せたがるトモミのようなタイプは、インファイターには向いていないと思っている。
とはいえ、接近魔法よりも記憶魔法【レコード】&記憶復元魔法【リメモリー】の精度を上げる方が優先度が高いのだが、実はこちらも捗っていない。原因は記憶する量が膨大すぎて解析処理が追いつかないのだ。
パワー系もダメ、レコードもダメ、……袋小路のような状態に陥ってしまった俺は、あまりしたくはなかったがミトさんに相談することにした。
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ちょうど魔なび舎での昼休み。みんながお昼ご飯に食べに宿舎へ向かっていて、ミトさんが丁度一人になった瞬間に声をかけた。
「ミトさん。俺に新しい精霊と契約させてください。そして接近戦が有利になる魔法をください」
ミトさんは予想もしてなかったようで、反射的に俺の目を見た。そして納得したような顔で、返事をくれた。
「最近、文句も言わず黙々と修練をやってると思っていたが、そんな事を考えていたのかい。……言わんとしてる事はわかる。しかしダメだ」
「ど、どうしてですか⁉︎」
「一番最初、このミストラルに来た時に適正検査をしただろ⁉︎」
「……えぇ〜例の血液検査ですよね」
「そうさ。あの魔法適正検査の結果、アギトには接近攻撃系魔法は不向きと出たんだよ」
「嘘でしょ⁉︎」
「正確には、適正確率10%だ」
「……ならば、その10%にかけさせてください‼︎」
「なおさらダメだ」
「なんでですか⁉︎」
「契約失敗すれば、アギト……あんたは全ての魔法を二度と使えなくなる。そういう意味での適性検査なのさ」
「……」
面と向かって言われると結構ショックだった。この街に来た当初、適正検査の時点ではチンプンカンプンだったが、今なら自分の魔法における適性の向き不向きは客観的に理解出来る。なぜなら俺は前世において格闘経験がゼロなのだ。それでも一応運動系だったので一縷の望みに賭けてミトさんに嘆願したのだ。それに対し、ミトさんは諭すように説明を続けた。
「誰だって、最強の魔法が欲しい。無敵技が欲しい。それならば、願えば誰もが簡単に手に入ると思うかい⁉︎ そんな方法があるなら、世の中は無敵の魔法を持つ『無責任な連中』であっという間に混沌だよ」
「そ、そうでしょうけど……」
「マルチに貢献したいのはわかる。ラストリンカー【最後の転生者組】として戦略のバリエーションを増やしたいのもわかる。しかし現実的に可能な部分と不可能な部分があるのも、また事実なのさ」
「……」
「ただし、可能性が0%だとは言ってないよ」
「え⁉︎」
「発想を変えるんだよ」
「え⁉︎ え⁉︎」
「アギトの魔法は記憶魔法【レコード】、記憶復元魔法【リメモリー】と罠魔法【ボトムトラップ】だね」
「そうです。解析した空間に設置する事で罠を発動します」
「例えばゼロ距離で罠を設置すれば良いじゃないか」
「な、なんですって⁉︎」
「つまり一定距離の地面や空間に罠を置くのではなく、接近した自分と相手の間に置く」
「そ、そんなことしたら、自分も相手と同等の魔法ダメージをモロに喰らいますよ。自爆行為ですよ‼︎」
「そんな事は自分で考えな。逃げるなり、守るなり……」
「そ、そんなぁ〜」
「いいかい……魔法はね、同系の魔法使いが存在してもみんな同じではないんだよ。それぞれが工夫して努力してオリジナルの魔法を磨くのさ」
「そ、それがトウタさんの混血魔法【ミリオンブラッド】……なんですね」
「そうさ。私の転生魔法も交換魔法【コンバート】から進化したオリジナル魔法さ。つまりさ、アギト。……お前にも無限の可能性があるんだよ。だから魔法はこうあるべきだという『既成概念』を超えてみせるんだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
ミトさんの言おうとしてることはわかった。どうやら焦りすぎて、ありもしない近道を探してしまったのかもしれない。ただ、ミトさんのアドバイスで道筋は出来た。暗闇をもがいていた頃に比べれば、一筋の光が見えただけでもだいぶ進捗した感じだ。解決はしなかったが、心のモヤモヤが少し晴れたような気がした。