青山 顎人(アオヤマ アギト)06
ミストラル住人としての正式な登録が完了し、アギト君は晴れてミストラル内に入ることを許された。そしてそのまま精霊契約のため俺たちと別れ、今度は管理班の人と一緒に街の中に入って行った。……正式登録された転生者の後ろ姿を入り口付近でカミューさんとしばらく見るのが、俺たちにとっての習慣だった。すると突然アギト君が結構離れた距離から慌てたようにこちらに振り返り、一礼をした。……こういうアギト君の行動を見ることで、真面目な性格の良さを伺い知ることが出来る。
「……行ってしまいましたね。アギトさん」
「あぁ〜ここからは、俺たちの範疇ではない。あとはアギト君次第だね。」
「ちゃんと、馴染めるでしょうか⁉︎」
「おそらく彼は、頼られる存在になるだろうね〜。リーダーかリーダー補佐的な存在かもしれない。それはカミューさんも感じていたでしょ」
「えぇ〜前向きで頭の回転も早く決断力もあります。何より優しいですもんね」
「可能性の話だけど、魔法による精神操作で人を支配する事は出来るかもしれない。でもそれはあくまで偽り。まやかしにすぎない。つまり純粋に『リーダーになるための魔法はない』んだ。そういう意味でいえば彼には生れながらにしてリーダーになる資質が備わっていると思う。頼り甲斐があるという一種の人徳みたいな人柄。こればっかりはもう才能というしかないね」
「そうですね。アギトさんは、必ず『誘者』から『勇者』になってくれると思います」
「……そうそう、そういえば最初に不安なアギト君をこちらのペースに持ってきた時のカミュールさんの言い回し方はさすがだったよ。あれで完全にアギト君はウチらが心の中を読み取れる能力を持っていると受け取っただろうね」
「うれしぃ〜‼︎ 師匠から褒められましたぁ〜。これも以前から前世界の情報を師匠から教えてもらったおかげですよ」
「だから師匠って呼ばないでくださいよ。カミュールさんの方が少しだけ年上なんですから、トウタでいいですよ‼︎」
「師匠は私の師匠なんですぅ〜‼︎ そして女性に対して年齢の話はタブーですよ」
「失礼しましたぁ〜。……で、では話を戻すよ。情報というのは、それだけで有利になるのさ。それは単に知識だけの意味ではないんだ。わずかな情報でも、立派に戦略に組み込める。今回みたいに使い方次第で相手の事を知らないのに『全部知られている』と思わせる事が出来たもんね。」
「そうですね。相手の虚をつく質問をした事で、アギト君は私たちを完全に信じてくれました。上手くいったおかげで話の主導権が取れました。でも、そうやって信じこませるのが、実は、とても大変な事ですもんね。今回は、師匠に手伝ってもらったおかげでギリギリいけましたよ。」
「そんな事ないさ、どんなに事前の打ち合わせ通りで想定しても、相手がこちらの思い通りになるからはわからない。僕らの話の信憑性、魔法という存在理由。そして転生理由。これらの説明を状況を応じてどのタイミングで言えば相手が信じてくれるか⁉︎ こればっかりはパターン化出来ない。まさしくカミュールさんの腕の見せ所だからね」
「何度やっても初対面ですから緊張しますもんね。でも、きっかけがあれば、信じ合う事ができる。思い込みが一番の特効薬ですねぇ」
「特効薬というか、全部相手に状況を言わせていたけどね。見事な誘導尋問だったよ」
「会話のテクニックと言ってくださいよぉ〜。話術といってくださいよぉ〜」
「さて、カミュールさん。体調は平気かな⁉︎ 大丈夫ならもう一回りしようか⁉︎」
「はい、師匠‼︎」
新緑が微かに映り込む水掘りから目線を上げ空を見上げると、霧と雲が重なり合いどんよりとしている。だた、今日は上空の風が強いのか、いつにもまして雲の動きが早い。その瞬間、ある一点だけが急に突き抜けたように隙間が出来、そこから清々しい青空と同時に眩ゆいばかりの光が射してきた。まるで、この先の希望を暗示するような……もしくはアギト君を歓迎するような……そんな光のシャワーのように感じた。
……こうして、俺はカミュールさんと共に、引き続き転生者を探す任務に励むのであった。