魔なび舎03
「……では、あらためて授業を始めますね。今日もよろしくお願いしますね」
「もぉ〜嫌だよ。こんなわけわかんない連中と一緒に授業なんて」
「オサムは後から来て、色々と文句を言い過ぎ‼︎ 少しは空気読め‼︎」
「なんだとぉ〜‼︎」
「ふたりとも、ちずかにちてくだちゃい」
「……はぃ」「あ、はい」
「あとオサムくんはモモちゃんのこっちでしゅ。ゲンキくんもそんなはぢこにいないでモモちゃんのとなりでちゅ」
「わ、わかったよ」
「……は、はぃ」
モモちゃんが言うといつも場が収まる。この子はそういう雰囲気を持っている。それは決して最年少だからと言う理由だけではない。この子は相手が大人だろうが子供だろうか別け隔てなく気配りが出来て、相手を優しく包み込む雰囲気がある。そしてコレは魔法能力ではなく、天性のモノだと思っている。こういう場合、年長の俺が偉そうに間に入ったところで収集どころか火に油状態になるのは、わかりきっていた。だから、情けないがいつもモモちゃんに頼ってしまう。
……しかし、トウタさんもカミュールさんも人が悪いよ。缶詰状態での授業だって言うから、修行僧みたいなのを想像しちゃったじゃないか⁉︎ むしろフレンドリーでだんだん居心地が良くなってきたよ。……そしてこういうバラバラな年齢で授業を受けるといろんな発見があるんだなぁ〜と思うようになってきていた。
「……さて何か質問はありますかぁ⁉︎」
この先生の名前は『スタンプ』さん。年齢は30才くらいといったところだろうか?小太りでアゴに髭蓄えている。普段はニコニコした笑顔が印象なのだが、それゆえに怒らしてはマズイ気がする。いつもの俺のサブイボ(鳥肌)がそう言っている。そして、この人の授業スタイルは何も説明せず、必ず質問から入る。つまり『ココはこうです。テストに出ますよ』という押し付けでないのだ。あくまで生徒の主体性、自主性に重きをおいている。
『ハイ、『精霊指定都市』と『政令指定都市』とのダジャレ感は否めませんが、もっとも聞きたいことがあります」
「では、スバル君の質問から聞きましょう」
「このミストラルの人口は何人ですか⁉︎」
「そうだね。元々の先住民【ネイト】が6000人、転生者【リンカー】が1000人程度だから合計で約7000人くらいだと思いますね〜」
「前世の世界、つまり転生前の世界では『都市』の定義の一つに、人口の総数という項目がありました。都市として認めるには最低でも5万とか10万人が必要だったはず。それより人口が少ない場合は街、町、村と呼んでました。なぜ、ここは町、街でなく『都市』なんですか⁉︎」
「……なるほど。スバル君の言い分は理にかなっているね。立派な知識だ。そういう疑問は大事にするといい。でもね、ダジャレ感は強いけど、それだけで『都市』とつけた訳ではどうもないらしいんだ」
「ど、どういうことですか⁉︎」
「まさに名前の通りだよ。『精霊指定〜』と言っているよね」
「あ‼︎」
「さすがに、飲み込みが早いね。そうさ。このミストラルは人間だけのモノじゃないんだよ。人間と精霊が共存するために作られた生活居住空間なんだ。そして精霊の現数は20万位とも言われている」【位は精霊を数える単位】
「に、20万だって‼︎」
……流石に全員がどよめいた。まぁ〜小さい子供たちが理解しているとは思っていないが、雰囲気で凄いという事はわかるのかもしれない。
「流石に正確に数えることはしてないんだけどね。でもおおよその数には間違いない。そもそも精霊は『人口』にはカウントされないからね。それでも総数をみれば立派な都市さ。でも都市は言いづらいよね〜。『ランド』の方が言いやすいよね〜。『ミストランド』とかがいいよね〜」
みんなが笑った。俺は笑うツボではなかったが、都市でも街でもランドでもどうでもよかった。というか、こんな内容をモモちゃん(6才)がわかるのか⁉︎……俺はそっとモモちゃんの隣にいき、中腰で目線をモモちゃんに合わせて、質問した。
「……あのさ、モモちゃんはこんな授業を聞いてて楽しい⁉︎」
「あい!!モモちゃんは、たのちいでちゅよ。モモちゃんはせいれいさんとみんなをまもるために、おべんきょうをちてるのでしゅ。アギトおにいちゃんは、たのちくないんでしゅか⁉︎」
……この子は本当にすごい。おそらく言葉の意味を理解しているのではない。感覚で理解しようとしている。だから質問のうわべでなく、本質をすでに見抜いている。……これは、俺も負けてはいられない。少なくとも6才に負けるわけにはいかない




