魔なび舎01 ☆画像あり
魔なび舎……前を通ることはあっても中に入るのは久しぶりだわ。実は昨年から転生者を多く受け入れる為のキャパ(容量)として、全面改築されたんだったわ。まさに時代の移り変わりを感じるし、こんな綺麗な建物が今の転生者たちの魔なび舎なのね。
「……カミュール‼︎ いつまで、入り口で見入っているんだい。早く中に入るよ」
「は、はい、ミスト母さん‼︎」
建物は斬新な作りになっていた。全面木造で解放的な空間。2階建てなのだが天井は割と高い。一部は吹き抜けになっており、1階から見上げる事で2階天井の明かり取り窓が一段と際立って見える。当然そこからは採光を取れるように計算されており、木の柱や床のフローリングが自然光に照らされ、なんとも柔らかな空間を演出しているのも、この魔なび舎の売りらしい。また教室と教室を仕切る壁、廊下と教室を仕切る壁がないのも特徴だ。だからパッと見は大広間にしか見えない。つまり自由な場所に移動式の黒板を持っていけば、その周りに生徒が好きな感じで集まり、必要な授業を自分の意思で受けるといったスタイルなのだ。
私の頃の学校といえば、年齢で学年が別れ、クラスが別れ、特別魔法授業ごとに部屋が別れていた。ところが転生者は年齢も体力も知識も異なる為に、このルールが適用できない。知識や歴史などのいわゆる詰め込み授業とはいいとして、メインである魔法講座においてはほぼ個別になってしまう。その為に『オープンルーム』という形式にした。これにより『教わる』授業から『教え合い高め合う』授業になったのだいう。
さらに、別のメリットもいくつかあると聞いた事がある。それは空間が解放されている事で常に周辺を注意する意識が必要なのだ。周りの授業も気にしつつ、メインの授業にも集中しなければならないという同時に複数の事を学ぶことが可能なのだ。この分散意識は『平和な日常』においてはまるで意味を成さない。むしろ勉学に集中出来ない環境ともいえる。しかし、そういう非効率の状況において、ストレスがかかる状況において、いかに自分のパフォーマンスを出すか⁉︎ 逆境を日常化する事で、魔法習得効率が飛躍的に伸びるのだという。つまりは『授業のための授業』ではなく『実践を意識した授業』という事らしい。
私も少し前を進むミスト母さんと同様に、基本魔法の足音と気配を消す消音魔法【ミュート】を使い廊下を歩きながら横目で授業風景を眺めていた。そして3グループほどの集団に別れて授業を行っている中で『みんな』を見つけた。アギト君、ケイちゃん、スバル君、ゲンキ君、トモミ君、オサム君、そしてモモちゃん。……私は小さい声で『みんな、ガンバレ』とエールを送った。
「……頑張るのは、あんたの方だよ‼︎」
ミスト母さんにツッこまれた。……確かに、そうなんだけど。……でも、みんなにも頑張って欲しいんですもの。応援したいんですもの。
私はみんなの授業風景に後ろ髪を引かれつつ、階段を登り奥の特殊空間部屋(通称:魔法契約の部屋)へと向かっていく。ただ流石にアギト君だけは、私たちに気づいたようだった。
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授業に集中していながらも、俺は廊下を歩いているカミューさんに、いち早く気づいていた。一緒にいる人は流石に『記憶』にない。それでも本当に久しぶりに出会えたので、授業中とはいえ一目散に声を掛けに行くのもアリだとと思った。……しかし、実際は声はかけられなかった。正確には一緒にいる人を見て、強烈なサブイボ(鳥肌)が出た。とても、カミュールさんに声をかけられる状況ではなかったのだ。……全くトウタさんといい、とんでもない人ばっかりカミュールさんの周りに集まってくるなぁ〜と感心するしかなかった。
「……まぁ〜……どうせ後で、会えるだろう」
「ん⁉︎ アギトは、なに独り言を言ってるのよ……気持ち悪い‼︎」
「そう言うなって‼︎ 今、カミュールさんがいたんだよ」
「え〜〜〜⁉︎ んじゃ、パパもいたの⁉︎ パパもここに来てるの⁉︎」
「ん⁉︎……パパって誰だよ⁉︎ カミュールさんと一回り上のお姉さん⁉︎ みたいな人しか、いなかったよ」
「……な〜んだ。つまんないの」
「そこ、うるさいですよ。いまはじゅぎょうのじかんなのです」
「モモちゃん、ごめんなさい」
「……ごめんなさぃ」




