転生してきた赤ん坊10
俺としてはラルが『希望の光』でも『絶望の兆し』だとしても、これからもやる事は変わらない。ただ時代のスピードには、追いつかないといけない。いやむしろ先手を打って先回りしないといけない。
「……事態はそこまで切迫していましたか。では俺たちの特別任務(転生者探し)も一時休止という事になりますね」
「その代わり、トウタは最前線班に合流してもらう」
「わかりました」
「ちょ、ちょっとまってくださいよ。私はどうなるんですか⁉︎ 師匠と離れ離れなんかは嫌ですよ〜。私は師匠と一緒にいたいんです。一緒にいなきゃいけないんですぅ〜」
「……カミュールさん」
「そう結論を急かすんじゃないよ。誰もカミュールを最前線に『行かせない』とは言ってないだろ。……だけどね、あんたにはもう魔法(転生魔法)がないんだよ」
「あっ‼︎」
「だからさ〜、私が大精霊を退く理由が『もうひとつ』あるんだよ」
「ま、まさか」
「そうさカミュール‼︎ あんたには『新しい魔法』を覚えてもらう」
「‼︎」
「転生魔法を封印した事であんたの『器』はカラになる。つまり膨大な別の魔法を入れる事が出来る。そして私が直々(じきじき)に契約をしてやろうじゃないか。……そもそも大前提として、大精霊は人間との魔法契約は出来ない。それは精霊のトップが、個人と契約しては何かと問題になるからねぇ〜。だからカミュールの転生魔法は正確には発動ではなく、精霊を介しての私へのダイレクトアクセス魔法だったというわけさ。一種の裏技だね」
「そんな理由で転生魔法は管理されていたんですか⁉︎」
「そうだよ。転生魔法は、いくら契約したとしても、一人の力で出来るほどヤワな魔法じゃないのさ。仮に一人で出来てしまう程の力があれば、その人間の精神すら壊してしまう可能性がある。」
「精神ですか⁉︎」
「だってそうだろ⁉︎ 魔法一つで、他人の命運を握る。そんな創造神の如き強大な魔法を受け継ぐということは、それだけ責任を持たされる。それだけの重圧に耐えられたとしても、例えば、私利私欲の為にこの魔法を使う者が表れたら、あっという間に独裁国家が出来上がってしまうじゃないか。そんなハイリスクな魔法を簡単に人間側に譲歩するわけがないだろう。保険はちゃんとかけてある。それが、転生魔法における複雑さの理由さ」
「なるほど。仮に詠唱方法を悪用する者が現れても、ミストさんが遮断すればいいんですもんね」
「そうならないためにこれまで継承者は5人しかいないのさ」
「流石です、ミスト母さん」
「そして今回の大精霊祭で新しい大精霊が誕生すれば、私は立場上晴れて『普通の精霊』になる。つまり堂々と契約可能になるって寸法さ。だからさカミュール、転生魔法に変わる新たな魔法をあんたに託すよ‼︎」
「ま、まさか、その為に俺の家に移り住んできたんですか⁉︎」
「うーん。まぁ全くないといえば嘘になるね。ラルを含むあんたら全員が心配だから。……特にカミュールなんかにラルを任せられるわけがないだろ」
「そんな事ないですよ〜〜。師匠には負けますけど、ちゃんとラルの育児もやってますぅ。……でもミスト母さん、ありがとう。これで私はまだ師匠の役に立てるわ」
「あんたに魔法を直接伝授するって事はさ。私も『師匠』になっちまうね。それにしてもカミュール!!あんたには『師匠』がいっぱいいていいね〜」
「カミュールさんに転生魔法を教えた師匠。その大師匠がミストさん。で今度は直々の師匠ですか、、、確かに、呼び方が面倒くさいですね」
「私の師匠は大勢いますけど、正式な師匠と呼べるのは師匠だけです。私の一番は師匠だけなんです」
「……ありがとう。カミューさん」
「名前の概念などなかった精霊にとって『ミストラル』すら、当時の私にとっちゃどうでもいい『名』だったよ。でもね、こうやって人間たちと長く関係を築いていくと、いつしか名前ってモンも愛着がわいてね……不思議なもんさ。」
「ちなみに、俺のいた前の世界では『名は体を表す』という言葉があります。その人の性格や物の実体を名前が表すという意味です」
「なるほどね。確かに私はこの『ミストラル』という名前と共に多くの事を学ばせて来てもらったよ。でも、もう私の考え方は古い。これからはラルを含め、あんたたちの時代さ。」
「……わかりました。期待に沿えるよう頑張ります」
「私も一生懸命頑張ります。ミスト母さん‼︎ よろしくお願いします」




