転生してきた赤ん坊09
ある日、カミュールさんが思いのほか慌てて買い物から帰ってきた。夕食の食材をテーブルにぶちまけるほど雑な置き方は毎度の事だとして、靴の片方脱げていない。それに気づけないほど興奮しているのだ。
「師匠〜た、大変ですぅ〜‼︎」
「ん⁉︎」
「そこで噂になっているのを聞いたんですけど、『大精霊祭』が始まるらしいのです」
「……大精霊祭⁉︎ 聞いたことないなぁ〜。でも楽しそうなイメージだけど」
「そ、そうじゃないんですよ‼︎ どういう事なんですか〜ミスト母さん⁉︎」
「え⁉︎ 大精霊祭ってミストさんを祝う祭りじゃないんですか⁉︎」
「違うわよ。……そんなことより、もっと小さな声で話しなよ。せっかくラルが寝たところなんだから」
「あ、すみません」
「わかればいいのよ」
「……それより、何が違うんですか⁉︎ 『大精霊の祭り』なんだからミストさんのことだと思いますけど」
「だから、そうじゃないんだよ」
「はい⁉︎」
「本当は先代の事なんだよ。つまり私が大精霊に就任する際に開かれた行事で、本来の意味は先代の大精霊様の功績を讃える行事だったのさ」
「え〜〜〜‼︎ 大精霊って任命制なんですか⁉︎」
「違うよ。試験だよ」
「試験‼︎……大精霊になるための試験まであるんですか‼︎」
「そりゃ〜あるよ」
「……年功序列とかで、一番の長老が大精霊になれるとかじゃないんですか⁉︎」
「そんなシステムにしたら、長老多すぎて、大精霊が2万位とかなるじゃないか!!」
「確かにそんなに長老精霊いたら、渋滞しそうですね。大精霊渋滞」
「師匠〜そんな喩えは、不謹慎です」
「スミマセン。調子に乗り過ぎました」
「多すぎるから、選抜するんだよ」
「まぁ前回の『大精霊祭』の内容はわかりましたけど、今回はなんなんですか⁉︎ どういう趣旨で行われるんですか⁉︎」
「私が2代目大精霊の任務から退くんだよ」
「な、なんだって‼︎」
「やっぱり‼︎……なんでですか、ミスト母さん⁉︎」
「……全てはラルのためさ。そのために私は大精霊を後継に譲る」
「う、嘘でしょ⁉︎ ミストさん、それマジですか⁉︎」
「いたって『マジ』だよ」
「それならば、転生魔法はどうなるんですか⁉︎」
「なんで⁉︎ どうにもならないよ」
「え⁉︎」
「だから『大精霊』の肩書きを後継に渡すだけで、私の寿命が尽きるわけじゃないんだよ」
「そうなんですか⁉︎」
「だから、私はまだまだ生きれるの‼︎ 簡単に殺すんじゃないわよ」
「そ、それにしてもなんでこのタイミングなんですか⁉︎ ラルのためとはいえ、今までの生活スタイルに何か問題でもあるんですか⁉︎ 特に不便ではなかったように見受けますけど(俺以外)」
「時代が動いているってことなんだよ。だから今の世代にマッチした『まとめ役』が必要なのさ」
「……どういう事ですか⁉︎」
「もう私みたいに精霊のトップが公園で人間の子供達をあやして団欒していい時代ではなくなったんだよ。本格的にこのミストラルの精霊代表としてみんなの先頭に立って指示をしないと行けない時期がすぐそこまで迫ってきている。そういう準備をする時期が来ているのさ。」
「……」
「とはいえ、この大精霊祭には関係なく、転生魔法はそろそろ潮時だと思っていた」
「え⁉︎」
「どういう事ですか!?ミスト母さん!』
「思った以上によそ者の警戒が強くなってきている。つまりダミーも含めて今後、設置するであろう可能性のある場所の危険度が高くなってきているんだよ。それに伴って懸念材料もあるんだが、今はまだ確認中さ」
「……つまり、安全の担保がないという事ですね」
「そうさ。だから転生魔法は使用不可にしようと思う。強制封印だね」
俺にとっても、カミュールさんにとっても、あまりにも突然の通告だった。ただ、ミストさんの様子から察するに、もうかなり前から決めていたような気がする。……まさかラルと出会ったあの時点なのか⁉︎ ミストさんはラルを『希望の光』ではなく『絶望の兆し』として捉えているだろうか⁉︎